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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2007/08/27号

コミュニティ・ビジネス
~社会貢献性と収益性のバランスが持続性を生む
ケース1 病児保育の場合

by 野田さえ子

 今、「コミュニティ・ビジネス」がおもしろい――。

 コミュニティ・ビジネスとは、市民が主体となって、地域が抱える課題をビジネスの手法により解決し、またコミュニティの再生を通じて、その活動の利益を地域に還元する事業のことである。縮小される行政に代わるサービスの担い手として、現在日本で注目を浴びている。

 国際協力関係者にとって、日本でのコミュニティ・ビジネスの経験は示唆に富む。特に、社会貢献性と収益性のバランスをどうとっていくか、という観点において大きな学びを得られる。財務面で不安を抱え収入源の多角化を図ろうとしている国際協力NGOや、プロジェクト撤退後も現地での持続性をもたせようと苦悩するODA業界で働く友人の話を耳にするたび、その思いを強くする。

 今回の学びの場は、東京都中央区にある「こども元気クリニック」併設の「月島病児保育室」である。

 子どもの急な発熱時に会社を休めず、座薬をいれて熱を下げ保育園に預ける親たち――。現代のシステムでは、子どもが病気だからといって急に会社を休むことは難しい。そうした社会のニーズに対して理解を示しつつも、病気にかかっている子どもに対しても健やかな成長を願い、専門家による病児保育を行っているのが、小児科医の小坂和輝院長である。

 「月島病児保育室」の受け入れ定員は6名。これに対し3名の保育士・看護師が受け入れる。(1)保育所併設型、(2)乳児院併設型、(3)単独型などの他の病児保育の形態とは違い、病院併設型の当保育室は、小児科医が近くにいるという優位性を持つ。2部屋のスペースをもち、麻疹や百日咳などの強い感染症や点滴などの治療が必要な場合以外は、インフルエンザや高熱の風邪などの病気でも受け入れる。昼食は親が用意。利用料は中央区民に対しては1日2,000円、区民以外は5,000円と割安で、区外からも利用者がいる。昨年(2006年)の年間利用者は953名。一日平均3.9人である。これに対して、利用希望者数は上回っており、風邪などが流行する冬季では1日あたり9人以上の利用希望者がある。

 当保育室の最大の課題は、財務面である。月額の人件費・賃料などの経費に対して、利用料からカバーされるのは15%程度。残りはすべて小児科クリニックの収益をまわして、なんとか赤字分を相殺しているとのことである。小坂院長の病気の子どもの保育に対する思いがあるからこそ続いているといってもよい。

 これに対し、「病児保育室を小児クリニックから経営的に分離し、独立採算制に近づけていくほうがよいのでは」というのが、日頃、中小企業に対し収益向上策の経営アドバイスを行っている中小企業診断士の意見であった。小児クリニックから人的・財政的・組織的に独立するとともに、補助金の活用、利用料の単価アップ、他の保育所やクリニックとの連携による利用率の標準化・向上を図る、などの案が出されたのだ。

 持続性をもって組織を運営する秘訣は何であろうか。

 「月島病児保育室」の場合、「病気の子どもに対する思い」という院長の善意のみに頼ることのなく、ある程度の収益性(またはコスト・リカバリー)を実現することが、持続性につながるのではないか。

 社会に必要とされている事業こそ、ビジネス化できる領域はぎりぎりの線まで事業性(収益性)を持たせることが求められているように思える。

*当記事は、「こども元気クリニック」の小坂和輝院長のご協力・掲載許可をいただいて書かれています。

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