トップダウンも使い様-トップダウンでもキャパシティビルディングは可能
by 野田直人
「アフリカは地方自治が発達しておらず、中央集権なので、ボトムアップは難しく、トップダウン的にやるしかない。」
そんな意見を耳にすることがあります。一村一品運動など、日本の地域おこしは地域や地方自治体主導ですから、日本の村おこし・町おこしの仕組みをそのままアフリカへ移すことができない、ということはその通りでしょう。私自身が何度もそのようなシーンに遭遇しています。
しかし、中央集権が強い国だからボトムアップができない、というのは多分に誤解があります。私は自分の経験から「工夫次第」だと考えています。トップダウンもうまく使えば、地域の多くの人たちのキャパシティビルディングに、大きな貢献ができます。
まず日本のことを思い出してみればわかります。日本の戦後の生活改善普及などは、決して地域の人自らが始めたり、地域からの要請で始まったりしたことではなかったと思います。当時は占領軍が大きく絡んでいたと思いますが、国レベルのトップダウンで枠組みが作られて、日本全国で実施されたものでした。
ではその中身は?まさに地域住民のボトムアップ。そして、生改さんと呼ばれる、普及員さんたちの工夫が個々の例では生きています。
一方バングラデシュのグラミン銀行。銀行ですから、貸し付けや返済のルールは銀行の中央部がトップダウンで決め、一律に適用しています。NGOがよくやるようにボトムアップで住民が利率や返済方法を決めたりはしていません。グラミン銀行はトップダウンなのになぜ、多くの貧困女性のエンパワーメントに成功しているのでしょうか?
実はトップダウンは、誰にとっても有用と思われる基礎レベルの機会提供を、システマティックに、大勢の人に、機会均等を守って届けるのには非常に適した、と言うか、多くの場合最も合理的なやり方なのです。
トップダウンはボトムアップの反意語ではありません。注意しなければいけないのは、何がトップダウンに向いていて、何が向いていないかを見極めることです。
日本で生改さんが活躍した結果、日本のどの地域でも、誰もが同じことをしているかと言うと、決してそのようなことはありません。地域や個人によってその後どうなったかはばらばらです。これと同様、グラミン銀行からお金を借りた人の、お金の使途やビジネスプランも千差万別です。
つまり、トップダウンで基礎レベルのキャパシティビルディングや、基礎レベルのサービス(グラミン銀行の場合は金融サービス)へのアクセスが確保された後には、かなり自発的に地域住民の中からのボトムアップが動き始める、ということを示しています。
そこでトップダウンで何を提供するか、どこで止めるか、ということが非常に大きなポイントになります。
大勢に、均一メニューを、機会均等で…というのにはトップダウンの方が実は向いているのです。
ところが、これをトップダウンで全部面倒見なくてはいけない、と思ってしまうと?
例えば途上国における日本の一村一品支援案件に見られるように、商品の選択から付加価値の付け方、販売方法や販売先まで中央で把握し、中央が指導しようとすると…ケースは多様ですから、すぐに中央のキャパシティでは対応できなくなります。
その多様性も、地域の多様性のみならず、市場の多様性や変化まで相手にしなくてはなりません。つまり中央では把握できず、コントロールもできない対象を相手にしなくてはならなくなります。
対象が一件、二件なら表面上対応できるように思えますが、百件、二百件となったら?全部を把握して、全部のケースに最適解を示す、などということは物理的にも不可能です。つまり、少数のモデルがうまく行っている場合であっても、後の広域展開には向かないアプローチになってしまいます。
個々のケースでの機会や限界が把握できるのは?地域住民自身か、その近くにいる支援者だけです。
以前セネガルで実施されていたPRODEFI、現在マラウイで実施されているCOVAMSというプロジェクトでは、基本的なキャパシティビルディングの部分を、外部から地域住民に対する研修という形で提供しています。つまり、日本の生活改善普及に似たアイデアですね。それをかなりトップダウンで、地域住民に機会均等で提供しています。
その中で住民の中から野菜栽培をしたり、養蜂をしたり、養魚をしたり、という動きが出てきています。
そこへの支援は基本的に「住民ができる範囲を見極めながらケースバイケースで対応」となります。事前に計画を立てておくことはできません。住民自身の試行錯誤、try and error を間接的に支援する、というイメージでしょうか。
まとめましょう。基本レベルのキャパシティビルディングや行政サービスの提供は、規模が大きいこと、機会均等が求められることなどから、トップダウンでシステマティックに行うことが合理的です。これは開発の下地作りになります。
一方、例えば個々の生産現場、個々の商品の市場となると、中央で状況を把握し、計画しても、思い通りに物事を進めることはできません。生産者を取り巻く環境や市場の状況はすべて計画によってコントロールできない外部要因になるからです。そして、逆にそこは当事者である地域住民が自らの責任で考え行動して行かなくてはいけない部分、自らもう一段高く登らないといけない部分で、ボトムアップ的にしかなしえない部分です。
すべてを「ボトムアップで」とやっても「トップダウンで」とやっても、実は効率性は落ちるのではないでしょうか。トップダウンの得手不得手を把握し、政府や外部者が計画できる部分と、計画できない部分をある程度見極めたうえで、どこまでトップダウンにするか、どこからボトムアップにするかを含めた戦略を練ることが大切だと思います。