"/>
人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2010/04/13号

「一村一品運動」は誰のため?

by 野田さえ子

「大分の一村一品運動の核は、実は物(特産品)づくりより、むしろ地域づくり、人づくりが成功の秘訣なのです。」

とあるのは、国際協力機構(JICA)のホームページ。
http://www.jica.go.jp/activities/schemes/tr_japan/summary/keiken01.html

一村一品運動の事業紹介の冒頭にかかれてある大切なメッセージです。

大分県の平松知事が提唱した「一村一品運動」が、アジア・アフリカにおいて導入が進んでいます。

タイのOTOP (one town one product)、モンゴル、マラウィのOVOP(one villageone product)をはじめとして、ラオスのODOP、最近は、特にアフリカ地域での展開が多く、モザンビーク、セネガル、ナイジェリアなど、さらに多くの国々で展開するような動きが見られます。

ところが、多くの場合、援助プロジェクトの実施計画を見てみると、一村につき 売れそうな一品、そしてその一品の生産者を選定し、売れるためのさらなるノウ ハウ技術供与あるいは資金・融資供与を行い、プロモーションの支援を行うとい うデザインになっています。

「物(特産品)づくりより、むしろ地域づくり、人づくりが成功の秘訣なのです。」という冒頭のメッセージは、どこがどうなって商品開発主眼のプロジェクト・デザインに変わっていったのでしょうか。

こうした、海外で導入された一村一品運動の評価としてよく聞かれるのが、大分の一村一品運動の核となった理念、「自主自立、創意工夫」「人づくり」の点で、限定的な効果しかでていないか、コミュニティ全体としてまったく効果がでていないというものです。

つまり、一品選出方式であるため、一村一品商品の支援の対象とならなかった、 コミュニティの残りの多くの人々にとって、かえってやる気がそがれたり、コミ ュニティ全体への士気や、地域の人々の底力の向上へとつながっていくという波 及効果が見られないというものです。

では、どうしたらよいのでしょうか。

一村一品運動が地域振興として真にする成功するカギは、3つあるような気がします。

まずは、商品開発が主目的ではなく、地域開発が主目的となるということです。

つまり、商品開発はその手段の1つにしかすぎないことを理解し、地域おこしとなるためのしかけづくりに工夫をこらすということです。

平松県知事も大分県行政も、一村一品運動に先駆けて自主的に村おこしをした大分県内の大山町や湯布院の民間や地域の地道な取り組みから様々なことを学び、第2の「大山町」や「湯布院」が現れるよう、多種多様な人づくりの仕組みやイベント、交流会を仕掛けてきています。多くの住民が、こうした新しい人的ネットワークや学習機会を得て、住民自身の底力をつけ、新たな運動へと発展しています。

本当に、大分県が実施した一村一品運動では、徹底した「人づくり」を行っていて、感心しました。

たとえば、1983年に開設された「豊の国づくり塾」。大分県内を12に分け、各地域に塾をもうけました。昼間働いて夜みんなが集まって勉強する塾です。勉強のテーマはそれぞれの地域が決め、2003年までに延べ1991名が卒塾し、県下各地域のリーダーとして一村一品運動や地域づくり活動で活躍。

このほか、セクター別には以下のとおり。
 農業後継者    →「21世紀大分農業塾」
 肉用牛生産者   →「豊後牛飼い塾」
 中核的な林業経営者→「豊後やる木塾」
 椎茸生産者    →「大分しいたけ源兵衛塾」
 漁業者      →「豊の浜塾」
 商業後継者    →「豊の国商人塾」
 地域経済界のリーダー→「豊の国経営塾」
 観光産業の若手経営者→「豊の国観交カレッジ」
 地域の国際化を担うリーダー→「豊の国国際交流カレッジ」
 環境保全活動の実践リーダー→「おおいた環境塾」
 生涯学習のための 「大分県ニューライフアカデミア」などなど。

経済的弱者にも人づくりのしかけを組み込んでいます。
例えば、若手母子家庭の自立を図ることを目的とした「豊の国しらゆり塾」など。

そして、女性には、一村一品運動に取り組む女性組織「大分県一村一品女にまかせろ100人会」などなど。

徹底した、住民への直接投資。機会と場の提供。

これがカギ。

それでは、途上国の、援助機関がからんだ特殊な条件で、それをどう実現できるのでしょうか。

そのヒントは、援助の現場の工夫として、すでにあるように思われます。

たとえば、セネガル共和国の村落林業では、地域リソースを活用し、より多くの人に学ぶ機会を与えるための実施方式(PRODEFIモデル)が導入されています。住民の反応は非常によく、現在マラウィなどにも広がっているそうです。

住民への直接投資が可能な、一つの成功のヒントを与えてくれています。

あとは、どのようにプロジェクト・デザインに落としていくか。工夫のしどころとなるでしょう。

特に、事前調査や詳細設計時に携わるコンサルタントや、援助機関担当者や現地行政機関が描く初期デザインの責任は重大だと思います。実施の段階で覆すのは、大変な労力を必要とするからです。

さて、一村一品運動を地域振興として成功させる秘訣の第二のポイントは?

【次号に続く】

■書籍紹介■

アジア経済研究所 松井和久・山神進編著
「一村一品運動と開発途上国~日本の地域振興はどう伝えられたか」 2006年

援助対象国の導入された「一村一品運動」の問題点の指摘は、すでに5年前以上から指摘されています。タイとマラウィの事例解説がありますが、特に、第II部 松井和久氏論文、「第3節 本当に伝えるべきものは何か」というところは、必読のパートだと思われます。
一村一品運動支援プロジェクトに今後携わる人あるいは携わっている人の必読の書。

国際協力事業ホームページ 有限会社人の森