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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2014/06/27号

コラム「農協を見直そう」

by 野田直人

日本では昨今、安倍総理の主導による改革においても農業協同組合(以下農協への風当たりが強く、特に全国農業協同組合中央会(JA全中)の機能には制限が加えられる方向で議論が進められています。

時の流れと共に、農協の役割も変化して当然。多くの農村部において農協は既に唯一のプレーヤー、唯一のサービス・プロバイダーではなくなって来ているのが日本の現実でしょう。

その一方で、途上国で仕事をしていて気が付くのは、日本の農協のような組織がほとんどない、という点です。

世界各地に農業協同組合と称している組織は数多くあります。しかし、そのほとんどは特定の農家がグループを組み、グループメンバーの利益だけのために動いているケースがほとんどです。国際協力の中でよく言われている「農民の組織化」もほとんどの場合、こうしたコンテクストの中で支援が行われています。

一方で日本の農協の場合は、「農業協同組合法」という法律に基づいて作られた組織で、農家が僅かな出資金を払えば地域農協の正会員となって、各農協が提供するサービスを受けることができます。

形の上で地域農協は出資者である地域の農民がオーナーと言えるかもしれませんが、実際には農協独自の職員を抱えてサービス提供を行う、独立組織です。ここが特定の農家がグループ化してつくられる、途上国のほとんどの農業組合との大きな違いです。

途上国でも、ラテンアメリカならば大規模に機械化された農業経営を行う農家も存在します。しかし、アフリカなど他の地域や、ラテンアメリカでも大規模農業に適していない地域においては、小規模な農家が市場とは遠いところでほそぼそと耕作を行っているのが実態です。

そのような小農の生産性を高め、産品の付加価値を高め、そして市場で利益をあげて行くためにグループ化、組織化の支援が多くなされているわけです。これは援助機関だけでなく、途上国政府独自のプログラムとしても多く行われています。

ところが、先に書いたように、途上国で行われている農民組織化のほとんどは、組織化された農民たちが自分たちのために、自分たちですべてを賄う、という発想に基づいていることがほとんどです。

例えば協同の耕作を行う。肥料などの共同購入を行う。加工を共同で行う。流通やマーケティングを共同で行う。などなど。無論、個々の農家で行おうとするとかなり無理がありますから、組織的に行おうとすること自体には合理的な理由があります。

ところが多くの場合何が起きるか。

組織化される農民は、その地域の中では比較的恵まれた農家だけになることが一般的です。日本の農協とは違い、全ての農家にサービスを提供する義務を負いませんし、むしろ行政や援助機関からの助けは独占したい、という心理が働いているようです。

政府や援助団体の側からすると、あちらこちらで組織化の支援を行わなければならず、ものすごい手間がかかります。100の組織を作ろうと思ったら、同じ手間が100回かかるわけです。ですから、なかなか組織率は高くなりません。

では組織化された農民たちが、支援する側が期待するように加工や流通まで担えるかと言うと、そうはいきません。元々の資本やキャパシティが不足していますから、何をやってもあまり大きな効果が出ない、という事例が数多くなります。

翻って日本の農協。これは農民の組織化のように見えますが、実際には農家を支援する中間組織を創り出しています。農協の職員は、自分の農産物を流通させて利益を得ているわけではなく、流通などのサービスを地域の農家に提供することの対価として給与を得ています。つまり、農協は農業ではなく、サービス業ということですね。

日本型の農協は、サービス産業ですから特定の農業者のためのみに働くわけではありません。利用者が多いほどスケールメリットが働きます。つまり、農協自体に利用者を増やすというインセンティブが働くわけです。もちろん、準組合員と称して不特定多数にサービスを提供するやり方の是非は別問題ですが…。

日本の農協のような仕組みは、実は発展途上国ではあまり見かけません。国際協力機構(JICA)の研修で多くの国の行政官を受け入れていますが、異口同音に「このような仕組みは自分の国にはない」「我が国の農協とは全く違う」と言っています。

途上国では「中間に入る」と言うと、すぐに流通を独占し、農民を搾取するような middlemen (中間業者)が想像されてしまいます。事実そのような業者も多いですから、農民を直接組織化して中間業者を排除するという発想が出てきます。

でも、多くの事例を見るにつけ、農民たちの直接組織化よりも、農民たちとwin-win の関係を構築するような中間業者の育成の方が、効率が高いケースが多いのではないかと考えています。

国際協力事業ホームページ 有限会社人の森