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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2016/02/24-1号

ワーキングペーパーを書こう

by 野田直人

このメールに「国際協力分野でのレポート・ライティング講座」及び「小論文の書き方 通信添削講座のお知らせ」を掲載していますが、案内記事を書いていて、ふと思い出したことがありました。それは、自ら進んでワーキングペーパーを書くことの重要性について、まだ人の森通信に書いたことがなかったことでした。

国際協力の仕事をしていると、義務として報告書やレポートを書くことが頻繁にあります。JICAのプロジェクトでも、青年海外協力隊でも、定期的に報告書の提出が求められますし、NPOのプロジェクトでも、頻度は違うかもしれませんが、大差ないことと思います。

こうした提出が義務となっている報告書は、もちろん提出しないわけにはいきませんが、ありきたりの、決まった内容を報告することがほとんどです。衛生要因と言いますが、「トイレはきれいで当たり前。汚れたままだと叱られる」ようなものです。「提出して当たり前。出さなかったら叱られる」わけです。

そして、多くの国際協力関係者は、決められたレポートをきちんと出して、評価を落とさないように注意しています。そう、きちんと出していれば「評価を落とさない」ことはできますが、あまり自分自身やプロジェクトのアピールには繋がりません。つまり、決められたことをするのは誰もがしていることであって、評価をする側の目をひくことにはならない、ということです。私自身某国際協力機関の本部に座っていたことがありますが、多忙な職員にとって定期的な報告書の類は「出たことを確認する」のが第一で、担当によっては内容を精査していませんでした。

私自身は青年海外協力隊でネパールにいたころ、定期的に提出を求められる報告書はきちんと書かなかった一方で、配属先になっていたFAOのプロジェクトに対して、自分で考えて書いたレポートを頻繁に提出していました。今から考えればお粗末な英文だったと思いますが、義務として課されていたレポートのほかに、テーマを決めてレポートを出していました。そのカーボンコピーを、協力隊の報告書にも添付して提出していました。ちなみ、当時はタイプライターで打っていましたから、文字通りのカーボンコピーです。

すると何があったか。私のレポートを読んだ当時のJICAの部長さんから直接のコンタクトがあり、私がネパールの任期を終えたのちに開始されるケニアのプロジェクトの専門家のオファーがありました。その結果、私は28歳でJICAプロジェクトの専門家となりました。ボランティアである協力隊員から、プロであるJICA専門家への道が開けた時でした。

時は流れて、私が40歳前後になりタンザニアにいた当時。プロジェクトで指揮をとって、Project Working Paper というものを発行していました。プロジェクトに課されている定期的な報告書以外に、トピックごとに英文でレポートを作成し、現地で簡易印刷・製本して発行していたのです。4年間の任期中に35種類くらい出したでしょうか。発行したペーパーは、JICA本部を含め、関係各所に送っていました。

すると何があったか。ある日突然、JICA本部が国連開発計画(UNDP)と合同で、お互いのプロジェクトを評価しあう、というプログラムの対象に選ばれたのです。対象となるのは貧困対策プロジェクトであったはずですが、表向きは林業プロジェクトである私のプロジェクトが対象として選ばれてしまいました。その理由は「外へ出せる英文の資料が揃っているから」でした。JICA内でほとんど知名度がなかった私のプロジェクトが、JICA代表になってしまったのです。

ネパールでも、タンザニアでも、決められた報告書だけ提出していては、決してこのようなことは起こらなかったでしょう。+αのペーパーを出すことが、誰かの注意・興味をひき、評価に繋がったのだと思います。

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