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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2010/07/06号

コラム「付加価値信仰を疑おう!」

by 野田さえ子

(1)途上国の「付加価値信仰」症候群?

JICA中部が実施する国内研修事業「アフリカ地域 地域資源を活用した地域 振興支援政策」の研修を終えて、マラウィ、モザンビーク、セネガルの省庁職員 やコミュニティー・リーダー達が、6月上旬に無事帰国の途につきました。

地域振興というテーマで各講座を編成。徳島県上勝町の「いろどり」などの日本 における地域振興の実際を見るプログラムもある一方、自国の地域産品を売るた めにどうしたらよいかを実際に考えるため、市場との対話の必要性やマーケティ ング手法を習得する基礎講座も組み込まれました。

市場との対話を考えるセッションでは、途上国産品の輸出振興のために何が必要 かという質問を研修参加者にしたところ、当初は、とにもかくにも「付加価値を つけること」「品質を向上させること」の2点に関心領域が絞られていました。

ここには、特に先進国への輸出に際して、市場のニーズあるいは競合他社の中で 自国製品をどのように位置付け、どの方向性とどこまでのレベルで付加価値をつ ければ収益が出るのかという視点は全くありませんでした。

よくあるのは、自国で人気のある商品をそのまま輸出し、品質を高めれば売れる はずだという信仰にも近いような、強い思いこみです。

例えば、参加者の中には、「ビサップジュース(ハイビスカス科の花を水で抽出 しシロップとあわせた甘いジュース)はおいしいから日本で売れるはずだ」とい った具合に、信じ切っている人もいました。

そこには、それを購入する側(顧客)が何を、どのレベルで求めているのか、ま た、その競合品は何かといった視点がすっぽり抜けています。

そして、そのビサップを売るために必要なのは、「ビサップジュースの製造品質 の向上」であったり、「パッケージングの技術の向上」であると信じて疑いませ ん。

これを私は、途上国産品の「付加価値信仰」症候群と呼んでいます。

(2)市場との対話で打破しよう!

研修の途中で、マーケットとの対話の必要性を体感してもらうために、JICA 中部内にあるフェアトレードショップ「フェアビーンズ」の店員さんへのインター ビューを設定しました。

参加者の方も、次第に質問の仕方に工夫をするようになり、顧客がどのような嗜 好を具体的に持っているか、どのような工夫が必要なのかのヒントを得ていたよ うでした。

例えば、アフリカ諸国で甘いジュースは受けるのに対し、日本では“砂糖入りの あまーいジュース”は味の好みや健康嗜好という観点からも受けないということ。

実はこれは、コカコーラ社が日本市場でのシェアを拡大しようとした際にも経験 したことです。

そこで同社が次に打った手の一つは、「甘くない飲料」の開発。水やお茶など新
しい商品を立て続けに開発し、最終的に日本市場でシェアをとることに成功した
のです。

こうした事例をディスカッションしながら、グッドデザイン賞を獲得した、日本
コカコーラ社が売っている天然水「い・ろ・は・す」を前にして、以下のような
コメントも参加者からでてきました。

「研修先から緑茶のボトルをもらったけれども、これを飲み干すのに非常に苦労 している。売り先の消費者の嗜好性をどう探るかも大切な視点だ。」

(3)途上国産品のビジネスチャンス

だからといってビサップは日本で売れないのかというと、そうでもないことに気 付いたようでした。

「われわれアフリカ製品の可能性は思ったよりも大きいのではないか。」

例えば、健康志向の高まりをうけて、実はビサップの対アメリカ向け輸出は伸び ています。これは、ジュースとしてではなく、天然素材を利用した着色剤として 伸びているようです。また、ビサップには、健康食としての効用も高く、健康食 材としての可能性も広がっています。

こうしたビジネスチャンスに気付くか、それともマーケットを見ないで、ビサッ プジュースの品質向上とパッケージ改善に注力しお金を投資するか、どちらの方 が収益に結び付くのでしょうか。

(4)ビジネス成功のカギ=日本人のエージェント

「では、日本の顧客の嗜好がよくわかり、日本の市場とつなげるような日本人の エージェントをどのように探したらよいか?」

途上国の行政官から集中して寄せられたのは、こうした質問でした。

日本の商社などの事務所はあっても、商社が求める品質や供給量を確保できるよ うな途上国における生産者団体を持つところは少ないため、少量輸出からスター トさせ、試行錯誤しながら商品開発や品質向上を共に模索し、成長しあえるよう な中小企業やベンチャー企業との連携が必要であると感じました。

では、日本では、そうした役割を担うエージェント候補はいるのでしょうか?

実は、どうやら、日本では、アフリカやアジア、中南米と携わるミニ・ビジネス を興してみたいと希望する個人が増えているようです。

例えば、マラウイからはちみつを輸入している水野行生氏(合資会社オフィス五 タラント代表取締役)のツィッターには、なんと2万5千人ものフォローワーが ついたそうです。その背景として、個人でこうした地域に対する興味や、ビジネ スを興してみたいという気持ちを持っている人が増えてきている、と水野氏は感 じています。

バングラデシュやネパールの素材を使用しバッグとして加工・販売している「マ ザーハウス」の成功。

民衆交易として何十年もフェアートレードバナナ等を輸入・販売している「オル タートレード・ジャパン社。

ルワンダからバスケットを輸入し、壁かざりなどのインテリア利用として高付加 価値で売ろうとしているルイズビィなど。

第二、第三の「マザーハウス」が、今後も、あちこちに生まれる予感がいたしま す。

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