バフェットとソロス 勝利の投資学
マーク・ティアー著 ダイヤモンド社
マーク・ティアー著 ダイヤモンド社
by 野田直人
ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスはどちらもゼロからはじめ、世界でもトップクラスの富豪に登り詰めた投資家です。アメリカの多くの富豪の例に漏れず、昨今は社会事業や国際開発などに多額の寄付をしていることでも知られています。
さて、この本は「バフェットとソロス 勝利の投資学」というタイトルになっていますが、金融商品への投資に限らず、他の事業にも共通するヒント・考え方が結構出て来るように思います。
私のセミナーを受けた方なら「金持ち父さん貧乏父さん」ロバート・キヨサキ著を勧めているのをご存知かと思います。
貧困層に向けた仕事の多い開発協力関係者は、経済的成功者の書く、いわゆる「金持ち本」にはあまり目を向けません。
しかし、大きな遺産を相続したラッキーな人でない限り、工夫と努力で財を築いた人のやり方、それ以上に考え方は、開発協力においても非常に参考になる面が多いのです。
「バフェットとソロス 勝利の投資学」を読み始めてすぐに出てきたのは、こうした投資家は運に頼ってはいないということ。
ポートフォリオという考え方があります。予測不可能なもの・不確実性が高いものへの投資は、組み合わせることによってリスクが分散できる、というのが大まかな内容です。
国際協力プロジェクトで取り上げる対象も不確実性が非常に高いものですから、計画を一本に絞り込んでそこへ全力投球する、ということは、わざわざ高いリスクをとりに行って、プロジェクトを当たるも八卦当たらぬも八卦の宝くじにしているようなもの。
そこで「ポートフォリオ的な考え方をすべし」ということをセミナーでも勧めてきました。
ところが「バフェットとソロス 勝利の投資学」という本の中では「ポートフォリオはリスク分散にはなっても、利益の確保にはならない」と指摘があります。
まさにその通りで、実は私は、自分でポートフォリオ的アプローチを勧めておきながら、「はて?成功はどこで確保するのか?」という疑問を持っていました。
バフェットやソロスは、自分が成功するという確信を持ったものに、投資を集中させています。リスク分散をせずに、高い確率で投資を成功させるがゆえに、速いスピードで財を築きました。
そしてバフェットやソロスの「成功の確信」というのは、思い込みではありません。きちんとした理由に基づいた、「高い確率でそうなると予測できること」なのだそうです。彼らは確認が持てるオプションがないときには、全く投資を行いません。
セネガルなどでの成功例を思い出してみると、やはり、住民はある段階で絞込みを行っています。
プロジェクトが仕掛ける働きかけの導入部分では確かにポートフォリオ的な考え方に基づいて複数のオプションを紹介します。
ところが研修を受け、自分たちで「お試し」をした後に住民は、取捨選択を開始します。経済的に見合わないものや、労力負担が大きなものなどは落とされ、自分たちで有効と判断した活動・事業を残して伸ばしていきます。
ポートフォリオの場合は、不確実なものを不確実なままで数多く持ち続けます。
ところが、私がセネガルで導入していたアプローチでは、不確実なのは最初の導入時点だけです。
地域住民にそれぞれのオプションについて学び、試す機会を提供することで、住民が生産方法やそのリスク、そして市場の反応などを知ることになります。
住民は、簡単なリサーチを行った後に「確信が持てるもの」に対してだけ、まとまった投資を行います。
これはバフェットやソロスがリサーチを行い、自分たちにとって確信が持てるオプションを見つけ出すのと、全く同じ行為と考えることができます。
かたや、多くの開発援助プロジェクトでは、上記のマラウイへの過去の援助でも見られますが、あらかじめオプションを一つに絞り込んだ上で、その計画の精度を高めようと考えます。
マラウイの過去の例で言えば、あらかじめ植林というオプションのみを取り上げて、他のオプションはほとんど検討されていません。
一般的に開発援助プロジェクトにおける事前の調査などは、あらかじめ設定された一つのオプションの検討だけが行われ、複数のオプションを並列しての比較などは行われません。
オプションが一つしかありませんから、実施に結びつけるためにはそのオプションを採択するしかありません。
そして詳細な計画が作られてしまうと、実際には不確実性はさほど消えていないにもかかわらず、計画事態の存在が不確実性を隠してしまいます。
バフェットやソロスという、大金持ちたちの考え方、アプローチの仕方の中には、開発協力の中でも使うことができる重要なヒントが隠されているのではないでしょうか。