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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2016/08/31-1号

フィリピンと日本のコミュニティ組織(Community Organizations)

by 野田直人

現在,野田直人は日本福祉大学大学院国際社会開発研究科(http://development-school.jp/d_school/)の客員教授、野田さえ子は同大学院の非常勤講師を務めています。この大学院は通信制で日本においては非常にユニークですが、選択制で受講しなくてはいけないスクーリングがあります。その一つが、今回僕、野田直人が同行したフィリピン・スクーリングです。

フィリピン・スクーリングはフィリピン大学の College of Social Works andDevelopment Study の協力の下で行われている5日間にわたるプログラムです。講義のほか、2日間はマニラ近辺の現場訪問に充てられました。

最終日に参加した学生の発表として、日本とフィリピンのコミュニティ組織の共通性が挙げられました。「どちらにもコミュニティ組織がある」というのが、発表の骨子でした。それは事実ですが、僕自身はこの発表を聞いた時に違和感を覚えました。「確かにコミュニティ組織と呼べるものは両国にある。でも同じカテゴリーの組織と考えてよいだろうか?」というのが僕の抱いた疑問でした。

日本のコミュニティ組織として挙げられたものは、自治会や町内会などです。一方のフィリピンでは、特定の地域の人たちが特定の意図に基づいて組織化された団体であることが多いです。例えばある地域の農家や、貧困層の再定住地区など。

フィリピンのコミュニティ組織として見たものは3ヶ所くらいですから、全フィリピンを代表しているわけではないかもしれません。でも訪問した3ヶ所に共通する特徴は、ある意味での住民自治組織であり、他の意味では特定の住民の利益を代表する組織である、ということです。特定の地域に住む住民が、特定の困難や状況を共有しており、そのためにグループを作っているという、住民の側から見た合理性に基づいて作られているのがフィリピンのコミュニティ組織だと感じました。

一方日本の自治会や町内会は、政府や地方自治体によって作られた線引きごとの団体です。コミュニティのために独自の事業を行うケースはあるものの、自治的な活動はむしろ限られており、政府や自治体からの情報を流すのに使われることが多くなっています。歴史的には隣組のような組織は、戦時中には国威発揚や相互監視のために使われたこともあります。いわば、官の末端組織のような側面を強く残した組織と言えます。

開発というコンテクストにおいて、フィリピンのコミュニティ組織が非常にダイナミックに動いているのに対し、日本の町内会などは「同じことを踏襲」し、変化が乏しいのが特徴です。

こう書くと、フィリピンのコミュニティ組織の方が優れているように思われるかもしれません。でも、どうやらそれぞれにカバーできている部分と、できていない部分があるように思います。

フィリピンのコミュニティ組織は明確なビジョンと当事者意識を持って運営されている、民主的かつ参加型でダイナミックな組織である一方、すべての国民が等しくそのような組織の恩恵を受けているわけではありません。

一方日本では、住民に参加意識・当事者意識が乏しく、活動に変化がなく、行政の末端に組み込まれてしまっているような状況である一方、それによってほとんどの国民が、特に地方行政が発する情報へのアクセスを保証されています。

国際協力に携わり、途上国のことを知ることは、自分が生活する日本のことを鏡に映して見るようなものであり、日本で暮らすということと国際協力を考えることは連続したものだと、つくづく思います。

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