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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2007/12/23号

存在の価値を見出す仕事

by 野田さえ子

最近、仕事の領域が、能力開発(教育)分野にシフトしてきました。

「多文化の人材・組織のマネージメント力をどのように伸ばすのか。」
「異文化コミュニケーション力をどう伸ばすのか。」
「日本における多文化共生のための教育プログラムをどうするのか。」
「外国籍の子どもたちのスクール運営はどのように組み立てていったらよいのか。」

こうしたことを考えていくと、どうしてもいつも同じテーマにぶつかってしまいます。

人がどのように自分の存在意義を発見し、能力をのばし、自ら行動するようになるのか、という問いです。

前衛芸術家のオノ・ヨーコの作品に、「天井の絵」というのがあります。

真白な梯子の上を見上げると、天井に絵がかざってあり、そばに虫眼鏡がぶら下がっている、という作品です。人はその作品を前にすると、おもむろに梯子をのぼり、そしてぶらさがっている虫眼鏡を手にし、天井の絵の中に何が書かれてあるのかを探してみます――。

そして、「Yes」と書いてある文字を発見するのです。「ああ、それで救われた」と感じたのは、そのとき初めて彼女と衝撃的な出会いをはたしたジョン・レノンだけではなかったと思います。

人々が“自己存在の肯定”を見つけ出す、そのプロセスの仕掛けづくりをしたオノ・ヨーコさんにすっかり感心してしまいました。

さて、もうひとつ、同じ問いに対してヒントを与えてくれた話があります。

ロバート・ディルツ博士のNLPコーチング」(ロバート・ディルツ著、佐藤志緒訳、田辺秀俊監修、2006年 ヴォイス出版)

という本の中で引用されている、エリザベス・シランス・バラッドが1976年に発表した「テディからの三通の手紙」の話です。どういう話かを短くまとめると、こんな話です。


ミセス・トンプソンは、新年度最初、受け持ちになった小学校5年生のうち、テディ・スタッダードという生徒がどうも好きになれませんでした。他の生徒たちと仲良く遊べないこと、汚い服を着ていること、体がにおっていること。だから太い赤いサインペンで、テディのテストの採点をするとき、解答用紙に大きなバツをつけ、大きく「やり直し」と書くと胸がスカッとするのでした。

学校から生徒の履歴を見るように言われたトンプソン先生は、テディの記録を最後まで見ずに放っておきました。でもとうとう彼のファイルを読み始めた途端、驚いてしまいました。

1年生の担任「テディはよく笑う、明るい子どもだ。言われたことはきちんとやるし、行儀もよい。そばにいるだけで楽しくなる子どもだ」。

2年生のときの担任「テディは優秀な生徒だし、クラスメートからも好かれている。だが、お母さんが不治の病にかかってから様子がおかしい。」

3年生のときの担任「お母さんの死は、テディにとって辛すぎる出来事だった。彼自身はがんばろうとしているが、お父さんが息子にあまり関心を示さない」。

4年生のときの担任「テディはひきこもってしまい、学校生活にもほとんど興味を示さない。友達も少なく、授業中に居眠りをすることもある」。

トンプソン先生は、やっと問題の深刻さに気付きました。

そして、その年のクリスマスの日、クラスの生徒たちからプレゼントをもらったときのことです。子どもたちからのプレゼントは、たいてい、明るい色の包装紙に包まれ、美しいリボンがかかっています。でもテディからのプレゼントだけは、重苦しい茶色の紙で不器用に包まれ、開けてみると石が欠けたラインストーンのブレスレッドと使いかけの香水のビンが入っていました。

でもトンプソン先生は、こう言いました。「なんときれいなブレスレットなんでしょう!」すると生徒たちの笑いはおさまりました。先生はブレスレットをはめ、その手首に香水をそっと押しあてました。その日、テディは放課後まで残り、一言こう言いました。「トンプソン先生、今日はぼくのママと同じ匂いがするね」。

その日からトンプソン先生は、単に読み書きや算数を教えることだけでなく、特にテディに注意を払うようにしました。テディはすこしずつ心を取り戻していくようでした。先生から励まされるにつれ、質問にもすばやく答えられるようになりました。

1年後、トンプソン先生はテディから手紙をもらいました。「先生は、ぼくのこれまでの人生の中で一番すばらしい先生です。今でもそのことにかわりありません」。

それから6年後、トンプソン先生はテディから手紙をもらいました。「くじけそうなときもありましたが、なんとか学校に通いつづけ、首席で大学を卒業することになりました。先生は、ぼくのこれまでの人生の中です一番すばらしく、大好きな先生です。今でもそのことにかわりありません」。

それから4年後、トンプソン先生はテディから手紙を受け取りました。「学位取得後、さらに勉強を続けることにしました。先生は、ぼくのこれまでの人生の中で一番すばらしく、大好きな先生です。今でもそのことにかわりありません」。でも、今回の手紙には大きな変化がありました。テディの名前にこんな新しい肩書がついていました「医学博士、テディ・スタッダードより」。

その年の春、先生のもとにテディから3通目の手紙が届きました。「私はある女性と出会い、結婚することになりました。父も数年前に亡くなってしまったため、もしできれば先生に私の母親の席に座っていただきたいのです」

もちろんトンプソン先生はこの申し出を受けました。

結婚式当日、スタッダード博士は、トンプソン先生にこう言いました。「先生、僕を信じてくれてありがとう。自分は大切な存在だ、違いを生み出せる人間なんだと気付かせてくれて、本当にありがとう」。

トンプソン先生は涙を浮かべながら、こう答えました。「いいえ、あなたが私に違いを生み出せる人間だと気付かせてくれたの。私はあなたに会ったからこそ、本当の教育の意味を知ることができたのよ」。


NLP理論は、ケア・テイキング、コーチング、ティーチング、メンタリング、スポンサーシップ、アウェイクニングという6つのレベルを提示しています。そのうち、スポンサーシップのレベルでは、以下のことを主に前提にしています。

「あなたのことを見ている」というメッセージをおくれば、相手が安心感を得る。
「あなたは存在している」というメッセージをおくれば、相手の心に平和が宿る。
「あなたには価値がある」というメッセージをおくれば、満足感を得る。
「あなたはユニークな存在だ」というメッセージをおくれば、創造力、独創性を発揮する。
「あなたの貢献は重要だ」というメッセージをおくれば、やる気、情熱がわいてくる。
「あなたは歓迎されている」というメッセージをおくれば、くつろぎ感や忠誠心をもつ。
「あなたは大切な一員だ」というメッセージをおくれば、献身の気持ちがわいてくる。

一時、ブームになったドロシー・ロー ノルト著『子どもが育つ魔法の言葉』に書かれてある言葉に似て、グサグサと胸にささる言葉が書いてありました。

存在の価値を見出す仕事――。

この領域は奥が深いです。

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