マラウイ訪問記 その4
by 野田直人
JICAがブランタイア郊外で数年前に実施した実証調査では、地域住民に植林と地域振興とを併せて普及するというアプローチをとっていました。
「日本の援助が終わると誰も何もしなくなる」
という話はよく耳にします。しかしこの地域では、対象となった村落ほとんどで、数年経った現在でも植林活動は継続されています。
地域振興のほうは、数年の間に導入したホロホロチョウが全滅してしまったところもあれば、養蜂が盛んになった村もあります。パフォーマンスには差が見られるものの、この手の援助としては、全体的には、「かなり残っている」という印象を受けました。
でも問題がないわけではありません。それは、「数年前から活動がほとんど広がっていない」ことです。つまり援助を受けて活動を始めた人たちは継続しているものの、援助の直接の対象者にならなかった人たちに、ほとんど広がっていないのです。
前に書いたように、この地域では流域全体の土壌保全を目指した取り組みが行われています。土壌保全に繋げるためには、限られた人たちの活動が活発化するだけでは不十分で、多数の人たちが取り組みを始めない限り、効果は出ません。
要は、以前のアプローチは「援助対象者による取り組みが継続する」という指標はクリアーしているものの、「活動が広く波及する」という工夫を欠いていた、と見ることができます。
多くの案件では、「村内の選ばれた人たちにパイロット的に活動を実施してもらえば、次第に周囲に伝播するだろう」というアプローチをとります。
具体的には村落や女性グループのリーダーを研修する。活動の活発なグループを集中的に支援する。あるいはモデル農家を選んでモデルファームを設営する、など。
ところがこうした「選択する」アプローチが機能することは非常に稀です。
こうしたアプローチでは、選ばれた人たちへの教育・技術移転という面では綿密な計画と行き届いた研修が実施されます。
ところが、選ばれた人たちから、選ばれなかった一般の人たちにどう伝えるか、というところでは、ほとんど戦略を欠いてしまっているのです。
人の森通信のもう一つの読者のグループは、企業経営やマーケティングなどにかかわっておられる方たちです。そのような皆さんは
「え?広げる戦略がないって、どういうことだ?」
「モデル農家やモデルファームもモデルなら、そこから広げるメカニズムは当然組み込まれているはずでは?」
と思われるかもしれません。
ところが国際協力の分野でいうモデルは、どちらかと言うと、ファッション・モデルのようなモデルなのです。
つまり、「これが完成品だよ」ということを見せるためだけのモデル。
ファッション・モデルはどのようにマーケティングの中で活かされるのでしょうか?多分広報としてのファッション・ショーの実施を組み込んだ、販売戦略としての、ビジネス・モデルが存在するのだと思います。
ところが、ビジネス・モデルのような考え方は国際協力の世界には、ほとんど存在しないのです。
私がセネガルで考案し、今度マラウイでも試行がされている PRODEFIモデルは、このような「伝える」メカニズムを含んだものです。
ところが、特に国際協力分野の学識経験者の方たちなどのコメントでは、逆に「これはモデルではない」となってしまいます。
このあたりに当社人の森が
「ビジネスと国際協力の融合を通し、貧困のない世界を目指します」
という一文をコミットメントとして掲げる理由の一つがあります。
こうしたテーマで、ついでに最近手にした本の中では、この一冊をお勧めします。
「社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす」
フィリップ・コトラー/ナンシー・リー著