日本の林業の再生と国際協力-再生すべきは組織
by 野田直人
先日NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という茂木健一郎さんが司会を務める番組で、日本の林業の再生を請け負う湯浅勲さんの話を放送していました。最初は、森林をよみがえらせる技術的な話なのかな、と思って見ていましたが、そうではありませんでした。
内容は、日本の民有林における林業の担い手である森林組合を立て直す話でした。つまり、森林組合の経営を立て直すことによって、植林地のマネージメントを立て直す、というストーリーだったのです。
私自身は元々林業技術の専門家として国際協力の道に入りました。しかし、この番組の教訓を生かして、途上国の林業技術協力に役立てよう!と考えたわけではありません。
番組には、組織運営にかかわる、ある意味普遍的な問題が描かれていたのです。
日本の森林組合には、月給制で雇用されている事務所勤めの正職員と、出来高制あるいは日当で雇用される現場作業員とがいます。
主人公の湯浅さんが指摘したのは、現場作業員の仕事に対するインセンティブの低さ、正職員と現場作業員との意思疎通の不足、そして現場をより良く知っている現場作業員に判断を任せない組織の構造などでした。
和歌山県の山深い林業地を湯浅さんが訪れた時のこと。作業に使う林道が、非常に崩れやすい斜面の上部に設置されていました。大雨が降ったら、道が崩れてしまいます。「どうしてこんな所に道を通したのか?」という湯浅さんの問いに対する現場作業員の答えは、「事務所から指示されたから」でした。
現場作業員は、多分、そこが林道には適さない地形であることは重々知っていたことでしょう。
それでもそのようなところに林道を通したため、大雨で崩れ、修繕費用が嵩み…という繰り返しで森林組合の経営は厳しくなるばかり。その結果、本来作業にかけるべき費用を削って山は荒れるばかり、という悪循環に陥っていたのです。
この森林組合に対する湯浅さんの一番重要なアドバイスは、「森林作業員を正職員にして、月給制にすること」でした。
その意味は、まず森林作業員に仕事へのオーナーシップと働く意欲を持ってもらうこと。そして、さらに重要なことは、今まで事務所勤めで意思決定を行っていた職員と、現場をよく知る作業員とを対等の立場にして、現場を知る者が判断し、意見を言えるようにすることでした。
つまり、現場作業員に、自ら改善を提案しようというインセンティブをしっかり付与すると同時に、組織内をフラット化して、その改善案が検討される道筋をつけることです。
他人事でしょうか?
私が知っているある日本のNGO。アジア各国で支援を展開しています。各国に派遣されている若い職員は、現地で雇用した現地人の職員の能力を高め、やる気を引き出そうと一生懸命頑張っています。
最近そのNGOは、ある国からの撤退を決めました。決定を行ったのは、もちろん東京にある本部です。現地職員は通知を受けるだけです。
撤退の理由はいろいろあるでしょうし、その是非が問題なのではありません。
ただ一つ指摘できることは、NGOの現地職員が、日本の森林組合の現地作業員のような立場に置かれてはいないか、という点です。不安定な雇用、権限の不在、コミュニケーション・チャンネルの不在。これは、組織の構造の問題です。
そのような構造を放置する中で、スタッフの生産性の向上や、プロジェクトのパフォーマンスの向上が果たして本当に図れるものでしょうか。
日本の国際協力では、官民を問わず、作る施設や伝える技術が重視されます。「学校を建てよう」「有機農法を教えよう」などなど。無論悪いことではありません。
しかし、その一方で、チームの一員として働く人たちのマネージメント、いわゆるヒューマン・リソース・マネージメントの考え方が抜け落ちているのではないでしょうか。人は、ただ計画通りに動くコマではありません。