コラム「一村一品運動」は誰のため? (第3回 最終回)
by 野田さえ子 国際協力コンサルタント 中小企業診断士
一村一品運動の海外展開において、特にアフリカなどの最貧困国における地域振興において大切な、第三の重要な点を考えていきましょう。
それは、行政あるいは援助機関の役割を見直すことだと思います。
(1)機会の提供
行政側あるいはプロジェクト実施側が行う役割を、一村一品商品の選抜・認証・補助金つき融資の供与ではなく、できるだけ多くの住民に機会や場を与える環境づくりをするように転換すること、です。
特に、途上国へ一村一品運動のコンセプトを導入する場合、村や県レベルの発意で始まった一村一品運動を、トップダウンの組織文化を持っている国レベルからデザインを落とし込むため、あるいは、援助機関側が対案をきちんと提示できていないためか、トップダウンのコントロール型一村一品商品開発プロジェクトに偏りがちです。(あるいは、あまりにもタイが実施したトップダウン型のOTOPをモデルにしすぎた、というのもあるかもしれません。)
このため、援助機関が途上国で実施する「一村一品運動支援プロジェクト」では、ある特定の村の中から有力な加工組合・あるいは企業・団体を1つ選抜し、そうした選抜者を対象に技術研修やマーケティング・アドバイスを外部から行うという図式が多いものです。
すると、村内にさらに格差が生じたり、機会を得られなかったその他大勢の人が取り残されて、村全体の運動になりえないという結果を生むことにつながります。また、選抜したグループへ移転した技術や知識が、その他の住民の間に波及したり、蓄積したりすることが期待できない状況に陥ります。
特に、一村一品商品として認定した商品にのみ、市中金利より有利な利子率をつけた補助金的融資を行ったりする場合は注意が必要です。技術移転以外にも、融資という観点でも格差を生む手助けを行うことにつながるからです。
また、これでは、一村一品運動の重要な理念である、自主自立・創意工夫の精神からはずれてしまいます。
では、対策はどうしたらよいのでしょうか?
プロジェクトデザインの大きな枠組みやアプローチや理念をもう一度見直し、こうした一部の有力者をさらに伸ばすというアプローチではなく、より多くの人にチャンスを与える方式をさぐる工夫が必要だと思われます。
機会供与方式は、住民のエンパワメントにつながります。
ヒントが大分にあります。
平松知事は、一村一品運動のコンセプトを地域に根付かせようと、まずは県の広報番組枠を無償で市町村の自主番組に使ってもよい、と機会を提供しました。
すると、市町村の担当者は試行錯誤しながら村の産品紹介や、村の紹介を行い、村の人たちは自分たちが出演しているので番組を見ました。テレビを見てみると自分たちが主役になっているのがわかりました。すると、さらに視聴率は上がっていく。村のよさがわかっていく。一村一品運動の理念が伝わる。やる気がでる。このような好循環を生み出し、一村一品運動のコンセプトを広げ、村人たちから、やってやろうではないかという機運が高まるきっかけづくりとなりました。
では、「これはいい!」と、このテレビ放映方式をアフリカで導入して、一村一品のコンセプトを根付かせよう、と考えてしまうかもしれません。
が、注意が必要です。
日本で成功したモデルをそのまま持ち込んでもうまくはいきません。
なぜなら、村レベルでのテレビを持っている家庭の割合は、日本と同様ではありませんので、テレビを放映しても物理的に見ることのできない人が多いのですから、同様の反応が返ってくることは期待できません。
では、多くの人が楽しく参加でき、またそれを見てもらうための工夫は何か考えるということが大事になってくると思います。
一つのヒントが、長い援助行政の試行錯誤でうまれた工夫の中にあると思います。
例えば、参加型ビデオ。 http://en.wikipedia.org/wiki/Participatory_video
村の人たちに、簡易なビデオで村の紹介や産品紹介をつくってもらい、上映会を行うなどは、非常によいアプローチだと思われます。上映は、近隣の施設がある場合はそこで、あるいは、移動式の上映会も選択肢として考えられ、実践事例として多くあります。
参加型ビデオの他に、例えば寸劇など、テレビ放映ではなく、村の人々が主役になり、やる気をおこし、そして、一村一品のコンセプトを紹介し、というのをうまく行う方法には、その文化や生活スタイルに適したさまざまな選択肢があるかと思います。
方法論はさておき、大切なのは、行政の役割の見直しでした。
繰り返しますが、その役割とは、より多くの住民への「機会」や「場」の提供であり、環境づくりです。特定の海外輸出品目を作らせることでも、地産地消製品を作らせるよう指導・指示することでもありません。行政の役割は、ファシリテートであり、リソースの提供であり、場の演出です。住民の選抜でも住民のコントロールでもありません。行政のリソースは住民が利用するものであり、住民をコントロールするものではありません。
(2)村、町、市、州、地域、国のブランド化への努力
徹底した機会提供以外に、行政に求められている役割は、町や州・県、国のブランドを高める努力だと思われます。
ここで注意が必要なのは、「OVOP商品」と称して一村一品運動ででてきた商品自体をブランド化しようとする動きがあることです。これは、まったく無意味とまでは言い切れませんが、よい方策だとは思われません。
大分県でブランド化に成功し、高付加価値を得たものは何でしょうか?商品のブランド化:麦焼酎(いいちこ) ユズ(ユズコショウ)などなど地域のブランド化:湯布院、大山町などなど。
地域+商品でブランド化されたもの:関さば、関あじ、豊後牛などなど。そして一村一品運動で名をとどろかせた、元気な地方、大分県。
あくまで、ブランド化が必要なのは、村であり、地域であり、地方であり、当事者です。
それは、その地域の地域おこしが主目的であるから、という最初の論点にもどります。
また、大切なのは、ブランドの持つ意味です。
ブランドが作られるのは、買い手の認知領域でおこります。
例えば、OVOP商品自体をブランド化するとしましょう。
OVOP商品の書い手は誰なのでしょうか?
また、その人にOVOP商品がブランドとして認知されるのでしょうか?
あるいはされる努力がされているのでしょうか?
また、それが為されたとして、OVOP商品というブランドは、援助が撤退したのちに、継続的に生き残っていくのでしょうか。
ブランドを作るには、何年、あるいは何十年にもわたる時間の育成と、不断の努力が必要です。
プロジェクトが終わっても、残るのは、村であり、地域であり、地方であり、当事国であり、またそこにいる人々です。
ブランド化は、誰のため?
一村一品運動は、誰のため?
この問いを、多くの関係者がさらに深く考えるときが来ている気がいたします。
■参考文献紹介■
>地域ブランディングに関する参考文献をまとめました。地域ブランディングに携わる人にお勧めいたします。