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人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2013/05/29号

コラム「エチオピア ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画のアプローチ」

by野田直人

JICAが実施したエチオピア・ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画のフェーズ2(2006年10月1日から2010年9月30日)は、非常にユニークです。このプロジェクトの本来の目的は、地域住民参加で森林保護を行うのが目的ですが、その手段として、地元のコーヒーの商品化を行い、成果をあげています。

このプロジェクトの概要を、チーフアドバイザーをされていた西村勉さんから伺う機会がありましたので、要点を紹介したいと思います。

ベレテ・ゲラはそれぞれがオロミア州に残る森林の名前です。建前は保護林ですが、昔から住民が居住しており、人工圧や農地化による森林減少が問題になっています。かと言って、住民を追い出すわけにもいかず、住民が主役になって森林を保護するような仕組みの構築が求められていました。

試行錯誤の末にプロジェクトがたどり着いた方策は、森林の中にある野生のコー ヒーの商品化でした。この森林には昔から、アラビカ種の原種が自生していて、現地の人たちはそれを採集しています。この野生コーヒーが経済的な価値を持つことができれば、住民にも森林を保護するインセンティブが働く、という仕組みです。

ではどのようにしてなされたか。

1)国際認証の取得と差別化ベレテ・ゲラでは、住民の同意を取り付け、森林管理計画を作成。それに基いて、ニューヨークに本部を置く、民間の認証機関 Rainforest Allianceから、持続的森林管理の元にコーヒーを生産している、という認証を取得しました。

エチオピア政府やプロジェクト独自のものではなく、国際的にも評価される認証を取得したことにより、「天然林から持続的に採集されるコーヒー」という独自性を世界のコーヒー市場に発信することが可能になりました。

これが後に日本でUCCコーヒーが「ベレテ・ゲラ」という名称でコーヒーを売りだすことに繋がっています。JICAが企業に頼んで取引してもらったのではなく、企業が認証機関のホームページで見つけて「買いたい」と連絡してきていますから、マーケティング戦略として非常に長けています。

またコーヒー豆自体のクオリティーは他のエチオピア産コーヒーに比べて特段優れているわけではないようですが、天然のコーヒーを地域住民が採種している、というストーリー性による付加価値が付いています。このため、通常のコーヒー価格よりも、地域住民が受け取る代金は20-30%多くなるそうです。

2)エージェントの構築 コーヒーは、良いものだからと言って生産者から消費者に自動的に流通するわけではありません。そこにはエチオピア国内だけでも集荷・輸送・輸出にあたる、そして売上を各農家へ支払うメカニズムが必要になります。こうしたことを担う中間組織や企業を僕は「エージェント」という概念でまとめています。

援助の多くのケースでは、農産物の栽培・加工技術にフォーカスを充てる一方で、こうした中間流通などを担う組織の育成や発掘には力を入れません。「商品はできたけど売り先がない…」というのが多くの場合の顛末になります。

このプロジェクトの場合は、プロジェクトが働きかけて、住民から集荷と住民への支払いを行う、地域別のコーヒー生産組合に加え、コーヒー輸出のライセンスを持つオロミア森林公社を育成し、ベレテ・ゲラのコーヒーが国外まで持続的に流通できるメカニズムを作り上げてしまいました。

3)地域ブランディング地域名である「ベレテ・ゲラ」が販売時のコーヒーの名前にも使用されています。つまり、地域の人たち自身がアイデンティティを感じる名称が、日本や米国などの先進国で評価されている、ということ。

こうした地域ブランディングと、地域ブランドが認知されるということは、地域住民の人たちの誇りと自信、そして継続するためのインセンティブへと繋がります。

短い文章ではベレテ・ゲラのケースを伝えきることはできません。苦労や工夫のプロセスを語りきることもできません。いつか、西村さん自身からお話を聞ける機会を設けたいと考えています。

  • 「エチオピア ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画のアプローチ」
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