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人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2012/11/28号

コラム「なぜ29円豆腐が売られ始めたのか?」~政策と中小企業の関係~

by野田さえ子(国際協力コンサルタント・中小企業診断士)

信じられない低価格の豆腐が、現在、日本で売られています。

今、私たちの地元一宮にある格安スーパー「カネスエ」で売られている豆腐の値段が、なんと29円。大豆やパックなどの材料費、加工賃、流通コスト、すべて入れて、豆腐が1パッ ク29円だなんて。ミネラルウォーターを買った場合でも、天然水とはいえども 水が入っているだけで100円以上するのに。

先日、三重県にある大豆加工業者の社長さんにヒヤリングする機会を得ました。

社長さんによると、地元でトップ10に入る豆腐製造業者が、ここ十年で、すべて倒産・廃業したそうです。

きっかけは、1995年に実施された、「賞味期限」表記への変更。

これまでは、製造年月日が表示し販売されていましたが、賞味期限の表示に変更されたのです。

なぜ、この表示方法の変更が、地元の豆腐屋さんに影響を及ぼしたのでしょうか?

日本の消費者は、自分を含め「新鮮さ」を重視します。豆腐もしかり。製造年月日であれば、新しい日付の豆腐を選びます。

だから、これまでは、地元の豆腐屋さんは夜中の12時すぎをまって、一斉に豆腐のパック詰めを行い、地元のスーパーにその日製造した豆腐を卸していたんだそうです。当日に製造し、販売できる豆腐の量は、12時からスーパーの開店時間までの制限がありますから、地元の小さな豆腐業者でも、価格優位性のある遠く離れた大都市の大手の豆腐業者に対抗できる余地があったのです。地元の地の利を活かして。

ところが、1995年に始まった「賞味期限」の表記は、いつ作られたか、ではなく、いつまでおいしく食べられるか、ということを示すもの。

こうなると、遠く離れていたとしても、価格優位性を持つ大都市の大手の豆腐業者に有利に働くようになりました。薬などを添加したり、保存方法を工夫したりした、賞味期限が長い豆腐を、地元スーパー側が採用し始めたのです。お客は、賞味期限の長いのを求めるからです。

もちろん、賞味期限への表記変更は、製造業者の働き手が行う夜中の残業などの労働条件を改善する、という目的もあったと聞きます。ですから、賞味期限への表記変更の政策の良しあしを一概に判断することは難しいかと思います。

しかし、いずれにせよ、1つの政策が、地方や、零細・中小企業、そこで働く人たちの生活に大きく影響を与えることを実感しました。

このメルマガを購読している読者の方で、国内を含め、途上国等で政策に携わる機会もあるかと思います。

安い豆腐をご覧になったら、ぜひ、政策の及ぼす影響の大きさを思い出していただければと思いました。

  • 「なぜ29円豆腐が売られ始めたのか?」
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