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人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2013/04/19号

中間組織(エージェント)を育成すべし

by野田直人

私は長年国際協力、特に村落開発の分野に携わってきました。思い返してみると、 そのすべての案件で対象としていたのは、政府組織・職員の能力向上や、地域住民の直接的なキャパシティ・ビルディングでした。

ここ5年ほど、国際協力機構(JICA)が実施する国内研修(途上国の人たちを日本に招いて研修するプログラム)にかかわるようになり、日本の地域開発のメカ ニズムを分析的に学び、途上国からの研修員の方たちに紹介するようになりまし た。

これは、日本の地域開発を見直し、開発途上国にどのように応用できるかを、見直す良いきっかけになりました。正直、僕自身が抱いていた途上国の地域発展の方策自体を見直す、良い機会となっています。

日本の地域開発を見直し、「なるほど」と思うと同時に「これは今までの国際協力に欠けていた視点だ」と思うことがいくつかあります。その一つが、日本における中間組織(エージェント)の存在です。

「エージェント」というのは、適切な用語が見当たらないため、便宜的に僕が名付けて使っている言葉ですが、地域住民と、市場など外部との間に入り、商品流通やマーケティング、加工設備の提供、場合によっては金融や技術情報サービスなどにあたる中間組織のことです。

日本で思い浮かぶ代表的なエージェントとしては、農業協同組合(JA)が挙げら れます。この他にも、第三セクターや民間企業がエージェントの役割を担っているケースが多々あります。

農業協同組合は、農村開発分野の国際協力においてもよくプロモートされるものですが、日本のJA(以下JA)と、発展途上国で言うところの農業協同組合とはかなり違いがあります。

途上国でもよく「農民を組織化しよう」と、協同組合のたち上げ指導が行われるケースが多くあります。でもこれは、あくまで農民のキャパシティ・ビルディングの一環として行われるケースがほとんどで、農民自身が自分たちのために組合で活動することが想定されています。

一方JAの場合、農民が出資金を払って組合員になり、組合員には代表選出の選挙権なども生じますが、通常の業務は専任の職員が行っており、組合員である各農家が行うわけではありません。その代わり、組合員は各サービスの利用料を支払います。組合員である農家が農協の職員、という場合もありますが、業務はあくまでも農協の職員の身分で行われ、個人の作業とは切り離されています。

発展途上国の農業協同組合は、ほとんどの場合、特定の農業者のグループが「自分たち自身で何かする」ための団体です。援助をする側も、農家を農業協同組合に組織化し、例えば協同購入、協同のマーケティング、協同での農産物加工などを指導しますが、あくまで、メンバーの農家自身が自分たちで行う、という前提で考える場合がほとんどです。

ところが、今までの協力の結果を見る限り、住民自身による組合活動がうまく行っている、とはなかなか言い難いのが現状です。特にアフリカの田舎の農家の人たちなどは、せっかく指導されても、自分たち自身でやり遂げるには多大な困難がありますし、「地域」の取り組みとなるための障害も多々あります。

物理的に消費地と距離があり、通信手段にも恵まれませんから、情報収集や商品流通が非常に困難です。

大消費地である都市の生活者とは、ニーズが大きく異なりますから、マーケティ ングが困難です。

学校に行ったことのない人も多いですから、経理や、自分たちで融資の仕組みを構築するのも容易ではありません。

比較的小さなグループとして始まることが多いですから、食品加工設備なども、 過大投資になりがちです。

一旦うまく行き始めても、既にメンバーになっている人たちと、新規に入りたい人たちとの利害調整が困難で、地域社会に広げることが困難です。

対して日本の田舎では、JAが上記すべてを賄っています。後発の農家も、組合員 になれば公平にサービスを受けられます。また、第三セクター企業のような形で、 特定のサービスを誰もが利用できるようになっている場合も一般的です。

つまり、その社会で共有できるサービス・設備などは、特定の農家やグループから切り離し、出資金やサービス利用料を払うことで、地域の農家であれば誰でも使えるような仕組みが構築されているのが日本です。地域にサービス・プロバイ ダー(エージェント)を根付かせているのが、日本の地域開発の特徴の一つと言 えるでしょう。

JAに限らず、林業なら林業協同組合があり、漁業なら漁業協同組合があります。 卸売市場もあります。これらはすべて、僕の定義のエージェント、市場などの外部と地域社会との中間的な組織、ある意味では中間業者です。

一方、発展途上国では「中間業者」というと、生産者をだまして搾取するような、 どちらかと言えば、排除すべき存在として語られることが一般的です。フェア・ トレードというアイデアなどは、まさに「フェアでないことをする中間業者を排除するため」に生れて来たようなものです。

もちろん、途上国では業者と地域住民とでは力に差があり、情報も流通手段も業者に握られていましたから、アンフェアなやり方が横行してきたのも事実でしょ う。しかし、だからと言って、中間業者のあり方を考えなくて良い、排除すれば良い、というのは違うのではないでしょうか。

生産者を支援する多くの案件は、マーケティングや流通で苦労しています。フェ ア・トレードなどの場合は、外部の団体が介入して、その団体の負担や「消費者の理解」に頼って、流通を維持しているのが現状です。

もし、現地に「フェア」なことをしてくれる中間業者、エージェントがいればそ れに越したことはないはずです。しかし「政府機関(あるいはNGOなどの援助団 体)が代わりになろう」というケースは数多くありますが、「地域にフェアなエージェントを育てよう」という目標を掲げた国際協力案件はほとんど見たことがあ りません。

JAなどの仕組みは、受益者とのwin-winが基本になっています。たとえば農作物 の流通の場合でも、JAの取り分は市場での販売価格の定率、ということになって いるケースがほとんどのようです。このため、JAの側に市場で高く売るインセンティブがあり、それが同時に農家の利益にも繋がります。その代わり、市場価格が悪い時のリスクは両者で負います。

一方、従来の途上国の中間業者の場合、商品をすべて農家から買い取り、市場で 販売します。農家から安く買いたたいて市場で高く売るのが一番大きな利益にな ります。また、農家から買い取った後の在庫リスクは中間業者が負いますから 「一番リスクを取るものが一番多く利益を得る」という理屈付けにもなります。

このように、日本と途上国とでは、中間業者の収益構造に大きな違いがあります。

その一方で、自らが生産者とはなっていないことや、行っている事業内容を見る と、農業協同組合という名前にもかかわらずJAは途上国の中間業者により近く、 途上国の農民を組織した農業協同組合とはずいぶん異なる、と言えます。

適切な中間業者、エージェントを育成することは、政府や援助団体の負担を増大させることなく、また農民自身に過大な負担や責任を強いることなく、大勢の人たちが裨益する仕組みを構築できる可能性を秘めています。昨今は農家自身から の批判も多いJAですが、エージェントという定義で見た場合、JAの仕組みで国際協力で参考になる点は多々あるように思います。

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