続「一村一品運動」は誰のため?
by 野田さえ子 国際協力コンサルタント 中小企業診断士
前回のメルマガでは、一村一品運動を海外に移転する際に重要だと思われる点を ご紹介しました。
それは、商品開発が主眼ではなく、地域おこしが主目的になるということです。 商品開発はその手段としてとらえ、住民に多くの機会や場を提供していくことを お伝えしました。
さて、二つ目に重要な点です。
開発すべき商品品目は、一つの村に対し1つではないということです。
これは、リスク分散の点や、どの商品が売れるのか試行錯誤していくという意味 もありますが、市場で売れるチャンスを増やす意味でも、多くの住民がチャンス を得るという意味でも、そこの地域のブランド力の向上の上でも、大分ではそれ ぞれの村が多くの商品開発にチャレンジしています。
ところが、海外で導入が進んでいる一村一品プロジェクトは、一村につき一品を 選定し、そこにマーケティングや品質向上支援を行うという方式を採用している 場合が多いのです。これは、One Village One Productという名前から誤解が生 じているのかもしれません。
つまり、ある畑から伸びそうな芽を一つ選抜し、それに日の当たる場所を用意し、 肥料を与え(マーケティング支援、技術支援)、水をやり(低利子融資支援)、 市場に売っていこうとする作戦に近いと思います。
では、その作物を買う人が少なかったら?
では、その作物をつくる似たような競合者がいたら?
その作物が、干ばつで枯れてしまったら?
その日当たりのよい場所や肥料を、外部から注入できなくなったら?
それより何より、肥料やよい日当たりの場所を与えられていないその他多くの作
物を作っているその他大勢の人は、どう思うでしょうか?
大分の一村一品運動では、商品の「種」の蒔き方や、どんな種をまけば売れるの かを主体的に考え出す機会を供与し、住民がより多くの種をまくことにチャレン ジし、それを促すリーダーを育てました。畑には、より多くの商品の種と、それ を工夫して商品開発をしようとするやる気のある多くの住民がいました。そして、 そのプロセスの中で多くの人が自信をつけ、自ら学んでいます。もちろん、失敗 もあるでしょう。しかし、主体的に学び、選んだ結果、住民に残った財産は大き いものです。
大分の一村一品運動は、一村につき一品を生み出す運動ではありません。
例えば、大山町の場合、梅栗から始まって「ムカデ農業」と呼ばれる多品種少量 生産で加工度を高め、高付加価値を追求し、一村120品以上を実現。このよう に、現在、多くの大分県の一村一品運動で生まれたものは、複数品目あるのです。
「商品数は多ければ多いほどよい」
こう、力説されるのは、当社で受託した、アフリカ各国向け村落振興研修に講師 として来ていただいた、、大分一村一品国際交流推進協会の安東さん。
ある一つの生産グループ・組合を選定し、そのグループが作る商品を応援するの ではなく、村の多くの人的・自然リソースの中から多くの素材を発掘し、そのな かからヒット商品を生み出していくという構図です。
大分の一村一品運動とは、村で1つの商品を選び、さらなる開発を行うことでは ない、ということを再度認識することが必要だと思われます。
むろん、そこには、市場(お客さん)からのニーズに応じて淘汰される商品もあ ります。が、それでも地域がチャレンジしつづけるメカニズムを、大分の一村一 品運動は生みだしています。
では、一村一品運動とは、何なのでしょうか?
私は、むしろ、one productではなくone prideを村で持とうとする運動ではない かと思います。一商品ではなく、一致した村のアイデンティティや誇りをわかり やすく表すもの、というほうが当たっています。
一村一品運動の提唱者、平松守彦氏も著書「一村一品のすすめ」 においてこう記しています。
「地域づくりには、生産者、商工業者、消費者などの各種の組織的な広がりと、 地域を結集するための共通の目標―シンボル―がぜひとも必要である。わたくし は、そのシンボルとして『地域に根差した産業にむすびついた特産品づくり』に 着目し、それぞれの町村で、『特色ある特産品を少なくとも一つは創ろう!』と 呼びかけ、その象徴的表現として『一村一品』と呼んだのである。」
この、平松氏の言う「共通目標」あるいは、村の目標(誇り=プライド)という のは、企業でいうところの、CI(Corporate Identity)を創るということに類似 していると思います。
CIとは、企業がもつ特徴や理念を体系的に整理し、簡潔に表したもので、一般 顧客からみて企業を識別できるような、その企業に特有のものです。また、これ を外部に公開することでその企業の存在を広く認知させるマーケティング手法で す。これは、ブランド名やロゴの場合もあるし、キャッチフレーズである場合も あります。また、そのCIは、会社内の人間のチームワークを強固にし、士気を 高める効果があります。
村の独自性や強みを見つけ出し、村の誇りや共通目標をみつけだす作業には、先 進国の企業はSWOT分析を行ったり、例えば日本の大分県では会議や話し合い、 あるいはリーダによる働きかけなど様々な方法で実践されています。
アフリカの村々でこうした作業を行うには、例えば非識字者が多い村へのアプロー チをどうするかなど、やはり現地に適した方法を考えていく必要があると思いま す。
ではどうしたらよいのでしょうか。
これには、長い援助行政の中で培われた英知の中にヒントがあります。
例えば、自分たちの村の強みや独自性を考えたり、村のアイデンティティや方向 性を決めていくために、非識字者にも受入れやすい参加型ツール群(PRAなどの、 地面や石を使ったリソースマッピング、ヒストリカルプロファイル等)を活用す るのも一案だと思います。これまでの参加型ツール群の使用は、村の問題点を認 識するための作業でしたが、一村一品運動の普及に使えば、村の誇りとなる点を さがすことに使われるということになります。
村でのアイデンティティや誇りを、誰もがわかるように、簡潔に表すのものを創 り出す。そして、人づくり、そこから派生する多くの商品開発へ、地域づくりへ とつなげていく。
そうした大分の一村一品運動を、アフリカなどの途上国に導入するには、参加型 開発による地域づくりの方法がヒントを与えてくれています。
【次号へ続く…】