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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2008/10/10号

誰が世界を変えるのか ~ソーシャルイノベーションはここから始まる
フランシス ウェスリー、ブレンダ ツィンマーマン、マイケル クイン パットン、エリック ヤング 著
英治出版

by 野田さえ子

さて、あなたは、以下に該当するだろうか?

(1) 財団・慈善家など支援者の人々
(2) 政府・公的セクターの人々
(3) 社会起業家・非営利セクターの人々
(4) 社会を変えたいすべての人々

いずれかに当てはまる方は、ぜひ「誰が世界を変えるのか ~ソーシャルイノベーションはここから始まる」の一読をお勧めする。

同書の巻末には、それぞれの人に宛てて、社会変革を成功させる「ヒント」が具体的に書かれてあり、非常に参考になる。

「有意義な社会運動に助成金を出すだけの活動には興味がなく、これまでとは大きく異なる社会貢献の方法を探したい」というデュポン・カナダ社の依頼により、組織開発のコンサルタントであるマイケル・パットンや、非営利組織向けMBAコースの策定者であるウェストリーなどの研究者たちが、同書の著者として集まった。

この本は、社会の在り方を大きく変えることに成功した社会起業家やチェンジメーカーの事例をつぶさに観察し、社会変革の理論として、複雑系の理論、カオスの理論、ネットワーク分析、経営論など、異分野の理論を駆使し、社会の変革を果たすような新しい考え方や新しいスキルを研究しまとめたものである。

たったひとりの人がはじめた、その人にできる範囲ではじめた小さな行動の変化により、相互作用あるいはネットワーク化によってスケールアップし、社会の在り方まで変える「集合的沸騰」にまで到達するという勇気付けられるような事例も満載である。

また、社会問題の分野も多岐にわたり、その社会変革の発展の仕方も様々で、自分の活動のヒントとなる点も数多くある。

たとえば…

アイルランド出身のロックバンドのボーカリスト、ボブ・ゲルドフが始めた、エチオピアの飢餓救済のためのグループ「Band Aid」。これまでチャリティ活動に縁の薄いとされる若者を、国境を超えたロックコンサートという手段で寄付者として開拓、6000万ポンド以上を調達し、これまでとは異なる方法で現地へ早急に救済物資を届けた事例。

1990年代にはHIV/AIDSの患者数が南アフリカより2倍も多かったブラジルで、2000年代には感染率を0.6%以下に抑え、「奇跡」と呼ばれた事例。

カナダで婦人服のデザインと製造を手掛けている事業家リンダ・ランドストロム。彼女の幼少期に経験したカナダ先住民族に対する人種差別の記憶から、先住民族の伝統的なデザインを生かした服を開発。後にアクセサリー製品の一部として採用されたビーズ細工を行う先住民族の女性たちは自らを互助組織として発展させ、社会的な発言力を強めていった事例。

アトランタ中心部のスラム街に家を買い、コミュニティ再生を達成した、エモリー大学教授のプリチャード一家の事例。

低所得者向けにマイクロクレジットという信用金融の機会を創出したグラミン銀行の創始者、ムハマド・ユヌスの事例

障害者の支援として、職業訓練でもない、収容所でもない、「人間関係を育てる」ためのネットワーク組織を立ち上げた、バンクバーにある「PLAN(Planned Lifetime Advocacy Networks=人生設計支援ネットワーク)の事例。

絶滅危惧種の保存のために、科学者、動物園の関係者、学芸員、NGO、野生動物保護管理官、企業など、主義・主張が異なる関係者との「つながり」を作り出し、感情論や「思い込み」を外して、世界的な協力をひきだしていったユリシリーズ・シールの事例。

医療行為による治療の可能性がない、死にゆく人々に対して、緩和医療(治療ではなく症状の緩和を目的とする医療)を提唱し、「患者が自分自身でいられる場所」を作り出したモントリオールにあるロイヤル・ヴィクトリア病院の外科医バルフォア・マウント医師の事例。

労働集約的な製造業が廃れ、金融・保険・ソフトウェアといった知識集約的な「ニューエコノミー」が興っても、かえってワーキングプア(貧困労働者)が増加してしまったウォータールーとケンブリッジの町。ここで貧困削減プログラムをスタートさせ発展させた、OP2000の事例。

ミネソタ州ミネアポリス中心部。麻薬の密売人がたむろする最貧地区にある「女性のシェルター」を拠点に、密売所を買い取り、低家賃の共同住宅を建て、後、コミュニティセンターや子供たちのためのセンターをも作りながら住居再生を果たしている2人の社会起業家の事例。

貧困、社会格差、差別、失業、治安、いじめ、障害、環境…

非常に複雑で壮大な問題に対し、「この自分にいったい何ができるだろう?」とあきらめかけている人、あるいは、こうした社会問題に取り組む、あるいは社会を変えたいと考えているすべての人の必読の書だ。

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