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人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2011/1/31号

シリーズ 社会的企業家 野老真理子社長に学ぶ
第二回:「冷静に数値で管理」

国際協力コンサルタント・中小企業診断士 野田さえ子

ソーシャル・ビジネスを運営する知恵を、社会的企業である大里綜合管理株式会 社の野老真理子(ところまりこ)社長から学ぶシリーズ第二回目です。

今回のテーマは、「数値で管理する」。

先日、といってももう数年前になりますが、「起業塾」を担当されていらっしゃ る経営コンサルタントの方から、こんなお話を聞きました。実は、私にとっても 耳の痛い話でした。

最近、起業したいといってくる人の中に、特に女性がその傾向が強いのだけれど も、アジア雑貨を売りたい等、漠然としたイメージを持って起業塾に来る人が多 いのだそうです。

そして、そういう方々に、「月商どの程度を予定していますか」と尋ねると、 「儲けはあまりなくていいんです。そこそこ生活ができる程度でいいんです」と ご返答されるのだとか。

では、「そこそこ生活ができる程度とは、月収どのくらいですか?」と尋ねると、 少し考えて、「そうですね、生活費もあるから、最低20万円くらいかな」との答 え。少なくとも、収入の最低ラインは漠然としてでもある様子です。

「では、その20万円の収益をあげるために、どの商品をどの価格で売りますか?」
「各商品の利益率はどの程度を予定していますか?」
「どのぐらいの家賃のところでお店を構える予定ですか?」
「人は雇いますか、自分で全部行いますか?」
「そのコストを賄って、かつ20万円の収益をあげるのに、どれくらい売上高がな ければなりませんか?」

と、このように、さらに数値を明確化していく作業を続けます。

そして、最後に算出された目標売上高や目標売上数量の数値を見て初めて、起業 をしたい方自身、その数値目標の大きさにびっくりし、また、その実現のために どれほどの努力が必要なのかがわかり、ある意味“現実を知る”というケースが 多いのだそうです。

さて、ソーシャル・ビジネスの先達、野老真理子社長の場合は、どうでしょうか。

やはり、さすが経営者。会社自体の経営についての数値管理はもちろんのこと、 社会貢献事業においても、「数値管理」を徹底していました。そのエピソードを ご紹介します。

例えば、同社では、地域づくり、地域おこしの一環としてコミュニティ・レスト ラン事業を行っています。社屋の2階にあるこのレストランでは、シェフは地域 の料理好きな住民が、それぞれ1日ずつ交替するワンディシェフというシステム を採用。また、食事をする人々は相席が基本で、地域内のコミュニティの広がり を目指しています。また、食材は、地元産の、安全で環境に配慮された野菜を使 用。例えばこの地域のホタルを保護しようと減農薬栽培を行っている地元からの 米を使用するなど、健康と環境双方にとって良い食事を提供しています。

実は、このコミュニティ・レストラン、もともとは社員食堂からスタートしまし た。そのきっかけは、会社の社員さんの健康診断の数値が悪かったことだそうで す。野老社長自ら、なんとかしたいと思って始めたそうです。

そして、やはりこれに対しても、きちんと「数値管理」。

「このレストランを始めた後はどうなりましたか?」と野老社長に尋ねると、 「導入後、数ヵ月後に数値をもう一度確認しました。そうしたら全員、数値が向 上していました。」と、きっぱり。

その後、野老社長は、この社員食堂を、今度は地域の人々も利用できるよう、コ ミュニティ・レストランへと転換させています。

恐らく、その向上した数値を見て、その社会的な意義・効果を瞬時に判断し、す べてのコスト計算を含め、そろばんをはじいた後に、コミュニティ・レストラン 事業の開始を判断されたと、推察しました。

実は、取材の後で、会社の経営計画書を見せて頂いたのですが、137もある社会 貢献事業のうち、すべて、社内と地域の担当者が明記されてある他、一つ一つの 社会貢献事業に対しても「年4回開催」「100人参加」など、数値による目標 が明記されてありました。

やはり、「数値管理がきっちりしている!」と、本当に感嘆しました。

ソーシャル・ビジネスに、「ビジネス」がついている以上、「数値管理を行うこ と」。これが、経営者たるものの基本であると、再認識した次第です。

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