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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2016/07/16号

間違いに気づき始めたドナーたち

by 野田直人

このコラムを書いている現在、マダガスカルのPRODAIREというプロジェクトに専門家として3週間余りにわたる現地滞在の途中です。

PRODAIREでは、セネガルのプロジェクトで開発したPRRIEアプローチを採用し、 プロジェクト対象地の状況にカスタマイズするための試行錯誤を続けてきました。

その結果、地域住民の植林や改良かまど作りへの参加が大規模に起こり、またラバカと呼ばれる斜面崩壊地への対策も住民主導で始まるなど、従来マダガスカルで実施されてきたプロジェクトとは明らかに違ったパフォーマンスを見せています。

PRRIEアプローチについては、5年前のプロジェクト開始当初にも、近くで実施されている世銀の担当者なども招いてプレゼンテーションを行ったことがありましたが、みんな「何それ?」という感じで、正直全く理解してもらえませんでした。

ところが、実際に結果が目に見えてくると状況は全く違い、当初はPRRIEアプローチに懐疑的であったマダガスカル政府環境省の高官も、よく理解して他ドナーへの波及に積極的になってきています。

他ドナーの多くのアプローチは、例えば植林するモデルエリアや、保全するエリアをあらかじめ決め、住民組織や組合を作って、その住民組織に対して援助することで、植林や保全を行ってもらおうというものです。

ところが、どの事例を見ても、最初に計画したエリアでの植林はほとんど行われませんし、組織に入らなかった住民は保全に全く興味を持たないどころか、保護林の中で木を切ってしまうなど、手間暇をかける割に効果が上がっていませんでした。

多くのドナーはこうした結果を見て、「一部の住民を組織化しても機能しない」 「組織化から漏れた住民は妨害行為すら行う」という問題に気付き始めました。

ところが、多くのドナーは「ここは植林地」「ここは保護林」というように、あらかじめ土地を区分してマネージメント計画を立てることに慣れていて、多数の住民に漏れなくアクセスする、というノウハウを持っていません。

一方PRODAIREが採用するPRRIEの原則は、機会均等の徹底です。全住民を対象に機会を提供し、「自分はプロジェクトの対象になっていない」「自分には関係ない」という人を作らないアプローチです。そのためにどのような構造を作り、どのように現地の人的リソースを活用すれば良いか、というノウハウをPRODAIREは持っています。

つまり、PRRIEは多くの援助プロジェクトに欠けているピースを埋めることができるアプローチだったのです。

近所の人は援助の対象になって、自分は援助の対象にならない、という状況が起きたら、援助の対象にならなかった人が嬉しいはずはありません。それどころか、マダガスカルは恨みや妬みが根深い社会です。利益が一部に集中したら妨害すら起こります。自分のことを選ばなかったプロジェクトの勧めをまともに聞いてくれるはずもありません。

PRODAIREが提供するのは研修だけですから、住民は直接モノやお金を貰えるわけではありません。しかし学ぶ機会だけであっても、得られた人たちには嬉しいものです。学ぶ機会を地域住民全員に提供することで、対象地域内に軋轢を作らず、 誰もがプロジェクトに対して好感を持ってくれる、そのようなアプローチがPRRIEです。

PRODAIREのアプローチを採用し、実践に移し始めようとしているのはまだ2つのプロジェクトしかありません。でも、試し始めたところでは既に住民とのコミュニケーションが深まったことを実感しているようです。アプローチを指導するのは、PRODAIREと今まで働いてきた、地方の小さなNGOのスタッフたちです。

他のドナーやプロジェクトへの紹介も続けています。マダガスカルの地にこのアプローチが根付くと良いのですが。

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