誰の価値観が大事? ある紅茶専門店の場合
by 野田さえ子
先日、東京出張の途中、渋谷にある宮益坂の雑踏を逃れて、ちょっとお茶したくなったときの話です。入った店は、Prontoなどチェーンの喫茶店が立ち並ぶ大通り沿いの渋谷郵便局の目の前にある小さなビルの3階で、知っている人でないとなかなか入れないような、ある意味外観からは目立たない紅茶専門店 です。
入ると、英国の小物に囲まれたバーのような喫茶店。私のような一人の客でも入りやすい、ゆったりとしたカウンター席。テーブル席が3つ、4つ。お客さんは全員女性でした。
紅茶専門店というだけに、紅茶葉の種類は豊富、値段は800円前後。店の入り口には、Golden Rules と書かれたお店の方針がかかれたカードが店の名刺の横に置かれています。
Golden Rules 黄金律
Use good quality tea 良質の茶葉を使う
Measure your tea 茶葉の分量を量る
Use freshly boiling 新鮮な沸騰したお湯を使う
Arrow time to brew 茶葉を蒸らす間待つ
「紅茶にこだわりのもつ女性客」という具合にかなり対象顧客を絞った店のコ ンセプトでした。
さて女性客を相手にする場合、一番大事なお店内のエリアはどこでしょうか?
私の独断と偏見でお答えすると、それは「トイレ」です。
正確にはトイレ脇にある洗面所(化粧台)のところです。女性であればほぼ誰しもこのエリアで過ごす時間が長い。ここでの満足感が得られるか、これが女性客相手であれば店の雰囲気やメニュー、プロモーションなんかよりはるかにインパクトを残すことになるからです。
こちらのお店で驚いたのは、そこのエリアに非常に細かい心配りがされているところでした。
まず大きな鏡が配置されていることや清掃が行き届いていることはもちろんのことですが、ホテルでいうアメニティが充実しています。小さな透明の小箱の中には、油取り紙、ヘヤゴム、安全ピン、綿棒、コットンなどが自由にとれるようにしてあります。男性にとって何に使うのかわからない小物がいっぱいです。こだわりのヘヤブラシや香水のビンもおいてあります。
あまりに細やかな気遣いをされていますので、会計のときにお店のオーナーは女性かどうか伺ったところ、なんとオーナーは男性でした。すばらしい。
「Whose reality counts? 誰の価値観が大事?」ということが、異文化の地域で仕事をする国際協力の専門家にいつも問われている課題ですが、経営の分野においてもそれは同じこと。お店の場合、お客様の価値観を反映させることが非常に大切ということですね。