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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2016/11/24号

プロジェクトと行政サービス

by 野田直人

最近ずっと、国際協力関係者や途上国の政府職員の方たちと仕事の話をしていて違和感を感じることが多くありました。それは、皆さんが「常にプロジェクトを前提に話をしている」からです。

日本で行われ、海外にも移転された地域開発のアプローチとして生活改善運動や一村一品運動が挙げられます。ところが、この二つは日本ではプロジェクトではなく、行政サービスやその組み合わせによって住民が支援を受け、継続している プログラムです。つまり行政はプロジェクトを立ち上げたのではなく、長期間継続する行政サービスを考えているのです。道路建設など、日本でもプロジェクト的な要素の公共事業はもちろん存在しますが、多くの行政官は継続性のある行政サービスを中心に考えていると思います。

ところが、途上国の行政官は、行政サービスを構築するという意識があまりなく、常にプロジェクト・ベースで物事を考えがちです。「5年間やったら何が達成できるのか?」「5年間予算や人員は確保できるのか」。さらには「ドナーがお金を出してくれるかどうか」などなど。

プロジェクトというのは、特定の目的を成し遂げる、あるいは特定の問題を解決する、期間や予算が決まった計画のことです。国際協力関係者は、計画や目的が明確で、予算が付けられる仕事以外はしにくいですから、プロジェクトを前提としたものの考え方になるのは致し方ない面はあります。

ところが、国際協力関係者は次から次へとあちらこちらの国でプロジェクトをこなす存在ですから、ある特定の国や地域で行政サービスをじっくりと継続する、という発想がほとんどありません。

たとえば植林プロジェクト。多くのドナーは「プロジェクト期間中に計画通り植えられるかどうか」ということを問題にします。プロジェクトを前提として考える途上国の行政官も「このプロジェクトでは何ヘクタール植林できるのか?」と
いうように、その期間限りの成果を求めます。

当たり前ですが、木は植えられ、切られ、そしてまた植えられと、継続した経営がなされていくのが本来のもの。こうした、住民の継続した活動をサポートする行政サービスの確立、といった発想は、ドナーの側も援助を受ける行政官の側も、あまり持ち合わせていないようです。時々「行政の仕組みを作る」とか「住民の組合を作る」とか、仕組みにフォーカスしたプロジェクトがないわけではないですが、「作るところまで」が目標になっていますから、「そのあと続きませんでした」というプロジェクトが山積みになっているのが現状です。

このような状態ですから、極力コストを抑えて行政が住民支援を継続するような提案をしても、途上国の行政官になかなか理解してもらえません。「どれくらい木が植わるんだ?」と、一定の期間内に地図で「この範囲が確実に植わる」というような目標設定を求められがちで、「住民が継続していくから、どこが植わるとは言えないが、積み重ねで相当な面積が植わる」というようなロジックがなかなか理解してもらえません。

これは、日本だけではなく、ほとんどの国際機関も含めたドナーの側の今までのアプローチに問題があったと言わざるを得ません。一過的なプロジェクトではなく、ある国のある分野の行政サービスをしばらくの間支援し続ける、というようなアプローチが必要なのではないでしょうか。

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