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人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2017/01/20-1号

コラム 不確実性を認めよう

by 野田直人

人の森通信の読者の中にも僕の講座で「仮説分析」のワークショップを体験した方が何人かおられると思います。これは計画の裏に潜む不確実性を分析し、計画の成否を「占う?!」ための演習です。この仮説分析の講義は海外からの研修員に向けても実施しています。ある時、このワークショップを体験したアフリカの小国マラウイの政府職員が言いました。

「計画やプロジェクトの数だけ見たら、我が国はとっくに世界一の先進国になっているはずだ。でも、なぜそうはならないのかよくわかった。」

現実には、マラウイは、今までの数多くの援助にもかかわらず、相変わらず世界の最貧国の一角を占めています。ということは、多くの国家計画や援助プロジェクトは、計画どおりの成果を挙げることができなかったわけです。

これは無論マラウイに限ったことではありません。どこの国であれ、実際に援助に関わった経験のある人であれば、多くのプロジェクトがうまく行かなかったこと、また自分でやってみれば、簡単にはうまく行かないことを十分ご存知かと思います。世銀などには世界のトップクラスの人材が集まっていますが、それでも大失敗を重ねているのが現実です。

ではどうして、プロジェクトや開発計画は計画通りに進まないのでしょうか?実は多くの場合、計画通りになど行くはずはないのです。「プロが良い計画を作れば、その通りに物事が進む」というのは単なる幻想か、勘違いです。

発展途上国の地域開発のケースを考えてみてください。多くの人たちは農業に従事しています。技術普及を行った場合、新しい技術を受け入れるかどうかは人の気持ち次第。例え新しい技術を受け入れても農業の出来は天候や環境次第。作物がよくとれたとしても、価格は市場の動向次第。

「人の気持ち」「環境・天候」「市場」これらの中に一つでも「計画すればその通りに動かすことができる」ものはあるでしょうか。一つもありません。たとえば「人の気持ち」が計画で動かせるのであれば、誰も失恋などしません。

「人の気持ち」「環境・天候」「市場」などは、誰にも完全にコントロールすることはできない不確実なものです。ところが、国際協力プロジェクトや、国の開発計画では、こうしたコントロールできないものを動かして、成功に結び付ける
という青写真を描きます。例えて言うなら「計画すれば当たりくじが買える」と考えるようなものですね。ほとんど意味がないことは誰にもわかることです。

国際協力の世界は、こうした不確実性と付き合っていかなければいけない、という意味で、むしろビジネスに似た世界です。ビジネスでは各社が生産計画や販売計画を作ります。でも、失敗も繰り返します。大きな失敗なら命取りですし、小さな失敗なら他の成功でカバーができるかもしれません。トヨタの作る車が全部売れるわけでもなく、ソニーが赤字に悩むこともあります。計画はすべて成功するつもりで立てられているはずですが、これが不確実性と付き合う現実です。

橋や道路を作るプロジェクトなら、かなりの精度で計画ができますし、計画通りに実行すれば、当初設計した橋や道路を作ることができます。構築物は物理の世界だからです。ところが、社会や経済を相手にする計画ではこうはいきません。

道路は計画通りにできても、利用者が予想よりはるかに少なく、利益が出ないという話も耳にします。道路を作るのは計画通りに実施できても、道路の利用は社会や経済に属することですから、本来計画どおりにコントロールすることは困難なのです。逆に、静岡空港のように、予想されなかったインバウンドの旅行ブームが起きて、計画以上の利益を出す、という「嬉しい計画外」も起こり得ます。どちらもプロが予測を立てていますが、プロがやっても予測の精度はそんなものなのです。

国際協力の世界では、とかく「きちんと調査して、良い計画を作ることが重要」と考えられています。ところが、対象とするもののほとんどが「不確実性」ですから、そのまま実施すればよい計画などは、論理的にあり得ないのです。

不確実性に対処するための知恵は、例えば選択肢の多様化、細かいPDCAサイクルの導入など、数々存在します。国際協力の世界でも、不確実性を意識した計画づくりと、実施を行えば、成果はさらに向上すると考えています。

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