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本の紹介「開発ワーカー必携! 生活改善ツールキット Ver.1」

by 野田さえ子

「開発ワーカー必携! 生活改善ツールキット Ver.1」
(独)国際協力機構 農村開発部 2006年6月
執筆者:佐藤寛(座長)、太田美帆(検討委員)

日本の戦後の農村部における「生活改良普及員」の経験がわかりやすく、写真など豊富で、当時の工夫がうまくまとめられてあります。特に、生活改良普及員と呼ばれる当時の開発ワーカー(女性)が担った8つの機能と、具体的な活動内容が俯瞰できるのがよいと思われました。

また、最近はPCM・PRAなど、方法論などの細部でかつ概念的な分野に入りがちなところを、問題解決のプロセス(要は仮説→検証)を1枚紙に見せたところがよいと思いました。

アカデミズム志向の強いこの業界らしく、このプロセスを、デューイの学習理論と合わせて「三層5段階思考法と課題解決プロセス」としています。どれほど難解な内容かと思えば、国際協力関係者以外が読んだら、「えっ、なんだあたりまえのことじゃん」と思えることを、理論づけて書いてあります。

「途上国の生活を向上させたいと考えているが、アイディアが枯渇気味。」
「カマドの改善をやっているがその以外のアプローチのヒントは何だろう。」
「日本の戦後の経験を基礎知識として身につけたい。」
「村落開発普及員として青年海外協力隊に出たものの、私の活動はどうだったのだろうか振り返ってみたい。」

そういう人にお勧めです。

なお、実務者からの提言として、タイトルの設定についてと、本書のターゲットユーザーについて以下、付記します。

1.タイトルについて
「生活改善ツールキット」というタイトルはやめ、「戦後の日本の経験」といったタイトルとしたほうがよいのではと思いました。ツールキットとすると、戦後の日本の経験がそのまま途上国に使えるのではという誤解を与えかねません。

その時代・環境で有効であった策が、別の時代背景・環境であてはまるものではなく、戦後の日本の経験を基礎知識として押さえ、自分で考え再構築する必要があることを印象づけるべきです。特に、この本が、青年海外協力隊の村落開発普及員用の事前研修のテキストとして配布されているようなので、そのあたりを研修でカバーする必要があると思います。

2. ターゲットユーザーについて
「いや、ツールキットとして実践的にJOCVに使ってほしい」というのであれば、使ってもらうターゲットユーザーを明確にして、実際に使えるようなものに仕上げるとよいかもしれません。生活改善普及員を10年以上やっていました、というベテランさんに対するものなのか、あるいは、大学院は出たものの生活改善を途上国でどうやったらいいのかわからない、まったく初心者の青年海外協力隊員に使ってほしいのか?

本書のターゲットユーザーを青年海外協力隊員にするのであれば、研究者がとりまとめた学術的なものではなく、行ってすぐに活用できるような、実戦的な初心者用の基礎キットを開発したほうがよいかもしれません。

(P.S.「世銀が開発したツールキットも使えないけどね」by 野田直人)

くりかえしますが、学術的にはよくまとまっており、お勧めの書です。

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