人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2008/08/30号

企業経営とNGO運営の共通点と相違点

by 野田さえ子

おもしろい企業経営者がいる――。

とある事業に大成功を収めたが、50代に突入して社会貢献事業熱にとりつかれ、 現在は時間の大半を生活困窮者支援や外国人・女性といったマイノリティの支援に情熱を注いでいる。

お金も使い、スタッフも雇い、人脈も駆使し、いろいろな社会貢献事業をしかけるが、どうもうまくいかない。私が知る限り、半年間で8-10個の企画を立ち上げるものの、いまのところ最後まで実施にいたったものは1つ。その間 NGOスタッフは辞めていき、最後まで残った人は誰もいない。残った成功事業といえるのは、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者や生活困窮者などの女性専用の一時避難所となる「シェルター」の開所であった。

開所式は、心温まるものだった。弁護士や市・県の福祉課の職員、民生委員などの近隣の支援者30名が集い、流しソウメンとバーベキューをともに食し、“新たな市民社会によるセーフティネットづくり”のための第一歩をともに祝った。実際、建築資材は、地元の建設会社からの寄付でまかない、土地・建物も地元の人からの寄付、リフォームには生活困窮者支援センターに住んでいるホームレス自ら2-3か月をかけて行ったもので、“市民による手作りの支援”の結実であった。

しかし、運営にいきづまっている。

運営を手伝う支援者は7-8名おり、泊まり込みでお世話をしてもよいというボランティアもいる。ヒトはいる。保護施設は4-8畳の部屋8室が確保され、おそらく食料の寄付依頼先もみつかるだろう。モノはある。会社オーナーの力を借りればカネもなんとかなる。

しかし、ヒト・モノ・カネをどう融合させ、うまくマネージしていくのか、ノウハウはどうするのかの部分がすっぽりと落ちていた。誰を対象としてあるいは優先順位をつけ入所させるのか。保護の方法は?DVによる一時保護の希望者が圧倒的に多いが、その対応は?常駐スタッフのスキルアップはどうするのか?安全対策は?子どもの教育・医療・資金の支援など行政との連携はどうするのか……。近隣との軋轢をどうするのか?運営目的の共通化や、運営方針の決定、運営ノウハウの習得が課題だ。

企業経営に、3M(ヒト・モノ・カネ)が大切な要素だといわれる。最近はこれに情報やノウハウが付け加わるらしい。ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウをうまく融合させ、機能させていく必要があるのは、企業経営にとってもNGO運営にも必要な点である。

しかし、相違点もある。

まずは、トップダウンあるいはワンマン経営というものはNGOには向かないということ。企業においてはスタッフと経営者は雇用関係があり、仕事の義務としてスタッフに求めることができる。しかし、NGOのスタッフとくに無給スタッフあるいはボランティアにはそれを求めることはできない。理念や目標に共感をしたメンバーがゆるやかに集い、その価値観の共有というゆるやかなつながりで、運営していく。ここが対立の要素になったりするのだが、こうしたスタッフに長くとどまってもらうには、スタッフ自らが自分でできる範囲を考え、作り上げ、小さなゴールを達成する喜びを味わい、また、この小さいサイクルを繰り返す必要がある。

第二に、企業の場合、さまざまな新規事業や新商品を次々と打ち上げ、その中から1つ大きな成功があればうまくいくのだが、NGO運営の場合、まずは小さな規模で1つ1つを成功させ、実績を積むことによって組織の信頼を勝ち取っていく必要がある。NGOの事業において、様々企画を立ち上げ、その中の1つ2つが成功すればよいというスタンスでいくと、行政機関をはじめとする支援者の信頼度をそのたびに低下させる危険がある。

第三に、成功した企業経営者の行動特性として、ともかく細かく考えるより先に行動に移す人が多い。やってみて、顧客の反応をみて、さらに行動を変えていくというやり方である。これがNGOに向かない場合が多い。助成金や寄付金を行政機関などのスポンサーに頼るNGOは特にその傾向が強い。

“PDCAサイクル”といわれる、P(Plan 計画する)→D(Do 実施)→C(Check 評価)→A(Act 行動)の流れでいけば、1つ1つの企画の成功率を100%近くにあげなければならないNGO運営において重要なのは、P(計画)である。これは外交色の強いODA:政府開発援助事業でもいえることである。しかし、スピーディな展開で競争を勝ち抜き自ら率先し行動に移し大成功を収めた企業家は、得てしてD→C→Aという順序で動き、P(計画)にあまり時間をかけないことが多い。今回の「シェルター」運営がいきづまったのも、まさしくこれであった。

と、分析するのは簡単である。

では、私はどうしたらよいか――?

自分がやれる範囲で少しずつ手を打っていくしかない。

そこで、まずは、シェルター運営のためのノウハウをつけるため、近隣の民間シェルター運営団体に講師派遣をお願いした。

「助けたいという気持ちはわかるんだけど…。開所式を開いた時点で、シェルターの場所を絶対知らせないという第一原則が守られていないから、DV被害者の保護施設としての運営はもう無理ですよ」ときついお言葉をいただく。

そりゃそうだよなー、と思いつつ、それも学習プロセスの1つとして、講師派遣をお願いした。また、支援者の一人が講師派遣のための費用を県が支援するスキームの存在を調べてくれ、行政機関とのネットワークの第1歩としてそれを活用し、申請書をあげることにした。

まずは、ここから手を打つしかない。

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