人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2010/12/02号

本の紹介『いかに「サービス」を収益化するか』

by 野田直人

『いかに「サービス」を収益化するか』
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編
http://hitonomori.com/books/4478560536.html

まずタイトルの中に「収益化するか」などと書かれていると、国際協力関係の人は「自分たちはノン・プロフィットだ!」と思われるかもしれませんね。その点は「成果に繋げる」と読み替えてください。民間企業であれば成果が収益に繋がり、国際協力であれば成果が人々の発展に繋がります。

この本には雑誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載されたビジネスに関する論文が8編収録されています。多くのテーマが含まれるのですが、私がここで取り上げたいのは2点です。

「スタッフの満足が顧客の満足に繋がる」
「良いサービスの提供が顧客のロイヤルティに繋がる」

これを書き始めた今、かつてアフリカのある国際協力プロジェクトで目にした光景を思い出しました。

日本人スタッフと現地のスタッフで構成されていたそのプロジェクト。主導権はドナーである日本人が握っていました。日本人スタッフがいないと現地のスタッフはその日、一体何をして良いのかもわからず、事務所でぼっとしているだけ。

現地の村々での技術普及が目的のプロジェクトでしたが、村を訪れる現地スタッフは、村の人たちの中でも、プロジェクトの働きかけに「Yes」と言ってくれる人たちだけに対して、決められたことを伝えたりするだけ。

要は計画を作り、指示を出す人(日本人)がいて、実働部隊である現地スタッフは、計画通り指示通りに一部の村の人たちを対象とした活動を実施していました。

それでも日本人スタッフが張り切って仕事をしていた頃には何かが動いているように見えていましたが、数年後、日本人スタッフが任期を終えて帰国すると、村の人たちの活動もほとんど崩壊してしまいました。

その原因は二つあります。日本人スタッフの指示でしか動いていなかった現地スタッフは、一方的に指示をされることを面白く思っていませんでしたし、また、日本人スタッフが指示するやり方(つまりは計画そのもの)の効果も疑っていました。そして、プロジェクトの援助を期待してすぐに「Yes」と言ってくる村の特定の人たちと、現地スタッフの間の関係は一種の「give and take」のようなもので、相互の信頼関係に基づくものになっていませんでした。

この例はある意味極端ではありますが、決して特殊ではありません。国際協力に長くかかわっている人であれば、思い当たる案件や事例がいくつかあるのではな いでしょうか。

さて、視点を変えてマネージメントというものが開発協力でどのように考えられているか見てみたいと思います。

日本の公的援助機関等におけるプロジェクト・マネージメントの資料を見ると、「調査」「計画」「投入」「実施」「評価」などの文字が踊っています。いわゆる「プロジェクト・サイクル」ですね。その中でスタッフがどのような位置づけ かというと「投入」の中で「何人」と書かれるにすぎません。つまり、スタッフに関しては何人入れるかということだけがマネージメントに含まれています。

次にコンサルタント企業がつくったプロジェクト・マネージメントの参考書も見てみました。http://hitonomori.com/books/487539067x.html
こちらは「労務管理」という項目があります。中には「チームワーク」といったことも触れられていますが、「計画」や「評価」の項目に比べると、はるかに少ない記述しかありません。

そこで英語の開発プロジェクトマネージメント関係の本を見てみました。http://hitonomori.com/books/0582082234.html
もう15年以上前に書かれた本ですが、本文229ページの内、約20ページが「Managing People in Project Organization」という章に割かれていました。ただしあくまで「in Project Organization」となっており、顧客、つまりはプロジェクトの対象者である人々との関係性まで含めた記述にはなっていませんでした。

国際協力のプロジェクトは地域の人たちを直接対象とするものばかりではありませんから、人々との関係をマネージメントの対象にする、という観点が資料の中に含まれていなくても仕方がない面はあります。しかし、国際協力が「地域の人たちに対するサービス提供である」「地域の人たちは顧客である」という考えに基づいた資料は、今まで見たことがありません。

「顧客にどのように接するか」は、サービス業を営む企業にとっては死活問題、最も重要なポイントの一つであることは言うまでもありません。その一方で、同じように人を相手にし、相手の満足を願う国際協力では「実施する側のこと」ばかりがフォーカスされる一方で、サービスを提供する対象者とのインターフェース、コミュニケーションをどうするか、などは、あまり注目されていない、というわけです。

このようなコラムを書くと、どうも問題点の指摘、のような視点から書くことが多く、事例も「暗い」ものが多くなりがちです。ここで一つ、明るい事例も紹介しましょう。

セネガルやマラウイなどで、地方に配属になっている政府の普及員を活用した活動を行った時のこと。政府の普及員は何もしない人の代名詞のように思われることも多い人たちですが、普及員に村で活動する機会を多く持ってもらうように仕組んだら、面白いことが起きてきました。

最初は「村へ行けって?手当はくれるんだろうね?」といった態度だった普及員(よくありますね)が、自主的に村へ出かけるようになってきました。手当なしで村へ出かけたり、中には自分が貰った手当てを活動費に充てる人も出てきました。

何が彼らを変えたのか?それは村人との信頼関係ができてきたことによります。村人が普及員の持つ専門性を認識し、敬意を払ってくれること。信頼を寄せてくれること。それが嫌な人はあまりいません。そうなると、普及員の側も、信頼に応えること自体が働くインセンティブになってきます。そうこうしている内に村で何かが動き始めると、「義務」として形通りにやっていた仕事が、それ以上のものと感じられるようになってきます。

現地のスタッフが村の人たちとの信頼関係を構築していくためには、もちろんいろいろな工夫が必要です。しかし、決してやってはいけないことは、村へ入るスタッフを、日本人スタッフや、現地の上級スタッフの「手足として使う」ことです。

手足、つまり目も耳も脳もない存在では、敏感な村の人たちは信頼に足る存在として見てはくれません。メッセンジャー扱いが関の山でしょう。自立して人と人としての関係を作ってくれる人。戦略的にそのような人材を育て、積極的に動いてもらうのが鍵となります。

『いかに「サービス」を収益化するか』には、民間のサービス業において、自立した従業員を育て、顧客サービスの向上、そして顧客のロイヤルティの向上に繋がった事例が紹介されています。興味をもたれた方は是非参考にしてください。

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