人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2012/10/26号

普及事業はリッツ・カールトンから学ぼう

reviewed by 野田直人

現在マダガスカルで行っている事業は、いわゆる普及活動です。林業とか農業、そして他の農村生活や生産にかかわる技術を、PRODEFIモデルから発展させた方法論を使って広いエリアに普及することを目的としてプロジェクトが展開しています。

PRODEFIモデルに基づいた手法、というのは、各集落レベルまでこちらが人を配置、あるいは派遣して、誰でも受講できる研修を実施するものです。

ここで問題になって来るのが、普及の担当者。政府の普及員は集落レベルまで細かく配置されているわけでもありませんし、全集落を巡回するだけの人員も揃っていません。アフリカでは、仮に人員が揃っていた所で、足がなかったり、何をすべきかの指示がなかったりでほとんど機能していません。

ですから、プロジェクトを実施する場合には、毛細血管が全身くまなく血を送るように、研修をくまなく届ける仕組みを、プロジェクトの側で構築しないといけないわけです。

僕が前回マダガスカルに滞在したのは5月半ばまで。今回は9月半ば過ぎにマダガスカルに戻ってきました。この間に他の日本人専門家らが普及の仕組みを構築し,集落レベルにまで担当者が細かく配置されていました。短期間でここまでよくできたと、正直感心します。

しかし、現場を見て歩いてみると「あれれ?」と思うことがいくつか。

その典型的なものが、研修出席への機会を逃してしまった人への対応でした。プロジェクトから末端の講師担当者へは「各集落で研修を実施せよ」という指示が出ており、各講師は、ほぼ、きちんと研修を実施しています。

でも、どこの国でもそうですが、一度だけの研修だと「何があるのか分からない」と様子見をして出席しない人や、「農作業に出ていて研修に出られなかった」というような人も、かなりの数出てきてしまいます。

そうした人たちの内の何人かは、同じ村に住む講師に「研修を受けたい」と申しこむわけですが、講師の答えは往々にして「ノー」になってしまいます。

これは実はプロジェクトにとっては大きな損失。お店で言えば「商品を買いたい」と言っている人に対して「売れない」と返事しているようなものです。

なぜこうなってしまうか?それはプロジェクトからの「研修を実施せよ」という指示だけでは、講師が地域住民と相互に交流するためには著しく不足があるからです。

2回目以降の研修を実施しても良いのか、講師謝金はプロジェクトが払ってくれるのか、あるいは研修に必要な材料はプロジェクトが支給してくれるのか。そのような情報は各集落の講師には伝えられていませんでした。

そして、もし複数回の講座を実施することが予算上可能であったとしても、それは誰の判断で実施できるのか?講師が単独で判断して良いのか?それとも事前にプロジェクトの許可が必要なのか?そうした基準や権限も、講師には明示されていませんでした。

政府や国際協力機関による普及活動は、どうしてもこちらから住民になにかを提供して「あげる」という発想や形になりがちです。しかし、こちらが意図するところは、自分たちが提供するアイデアとか技術を住民の人たちに採用して欲しい、つまりは今風の言葉で言えば「コンテンツを買って欲しい」ということと、何ら変わりはありません。

「普及対象者」なんて呼ぶと、地域住民が受身の対象物になり下がってしまいますが、実際は「採用するか否か」の決定権を握っている、言わばお客様のようなものです。

世間一般、お客様を相手にする商売であれば、お客様が「欲しい」と言っているのに「売らない」という返事はしません。少なくとも「あいにく在庫を切らしておりますが、すぐ本社に問い合わせてお返事いたします」くらいは言うことでしょう。

お客さまに対してできる限り「ノーを言わない」ようにする、これは基本かと思います。

翻って国際協力の現場。末端への「指示を伝達する」「指示通り行われたかをモニタリングする」ことには熱心です。その一方で、「顧客との接点にいる人たちはうまく機能しているか」に関しては、多くの案件がほとんど注意を払いません。

プロジェクトの構成員に対しては、末端に至るまで、「できる限りお客様(地域住民)にノーと言わないように」という指導と、「ここまでは自分で判断して実施してよろしい」という権限移譲、「その判断に対する経費や責任はプロジェクトが負担する」ことの明示は、最低限必要なことであり、プロジェクト・マネージメントの中に含まれなければなりません。

残念ながら、国際協力の参考書をいくら読んでも、こうしたことはほとんど書かれていないのが現状です。

一方民間企業にはいくらでも参考になる事例があります。何しろ、お客さんをないがしろにしていたのでは、すぐにビジネスが成り立たなくなる世界ですから。
その中でも有名なのが、高級ホテルのチェーン、リッツ・カールトンの事例です。

リッツ・カールトンに関しては多くの参考書が出ています。全部読んでいるわけではないので、どれが一番かはわかりませんが、一冊だけ挙げておきます。ぜひ,民間企業で、スタッフに対してどのような動機づけがなされているかの参考にしてください。

「リッツ・カールトン20の秘密―一枚のカード(クレド)に込められた成功法則」 http://honwoyomu.com/books/4761262788.html

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