人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2014/07/24-2号

本の紹介
99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る
岩佐大輝著

by 野田直人

99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る 岩佐大輝著

この本の著者、岩佐大輝さんの故郷は宮城県山元町。3.11の津波で大きな被害を受け、地場産業であったイチゴ栽培は壊滅的な打撃を被りました。東京でIT企業を経営していた著者は、故郷の再興を行う決意をし、自らイチゴ栽培に乗り出します。

本を読んで驚くのは、まずスピード感です。

震災から1年が経たない内にイチゴを栽培する農業生産法人を津波の被害を受けた山元町で立ち上げ、そして最初の収穫を行ってしまいます。

2年目には補助金と借入金を使って、先端的なイチゴ農場を建設し、そして東京の伊勢丹で一粒1000円で販売されるイチゴを出荷します。それと並行して、南インドでも現地での雇用を創出すべく、イチゴ農場の建設に乗り出します。

3年目にはインドでイチゴが収穫できるようになり、JICAからインド農村の開発事業を受託します。さらにサウジアラビアでの事業の調査を開始します。国内では、山元町のイチゴを使ったスパークリングワインなどの生産を開始します。

この3年間には失敗も困難にぶつかることももちろんあるのですが、時には損失を出しながらも乗り越え、経験値を高めて前へ進んで行きます。

まずこの人の考え方は、復興や途上国の地域開発を、ビジネス経営と何ら区別しないところにあります。「機会を見逃すのが最大のリスク」と考え、十分な準備ができるのを待たずに動き始める。そして観察しながら素早く軌道修正を加えて行く。

著者は「とにかくPDCAサイクルを早くたくさん回せ」と何度も書いています。これは国際協力においても共通で、私自身も自分の講義などで毎回強調していることではありますが、著者のスピード感にはただただ脱帽です。

(PDCAは Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(対策)の略)

私は現在マダガスカルのプロジェクトに出張できています。このプロジェクトでは初年度から、200以上の集落を対象に事業を行っています。「まず5つの集落で試してから」というようなプロジェクトが国際協力では結構多いですが、広げることを意識したアプローチを取る場合には、最初から狙って行って、早く
PDCAサイクルを回す必要があります。そこまでの発想は共通。

マダガスカルのプロジェクトでも、もちろん問題も発生しました。修正しようと努力もしています。

そして、想定していなかった機会にも気が付きました。ここからが、この本の著者とは違います。

マダガスカル政府と日本政府が一緒に行う私たちのプロジェクトは、計画の範囲内で、予算の範囲内で実施しなければなりません。この本の著者はチャンスに気が付くと、すぐにビジネスプランを書いて資金を借り入れ、イチゴ栽培に乗り出しますが、国のプロジェクトでは計画外のことに予算を投入して行くことはでき
ません。著者は「チャンスを見送るのは最大のリスク」と書いていますが、私たちのプロジェクトは制度的にそのリスクを背負ってしまっています。

PDCAサイクルの回し方にも違いがあります。著者の場合、PDCAサイクルを回す本人でもあり、その結果に基づいて意思決定を行う本人でもあります。つまり、 PDCを行って、自分でActionを行う責任と権限を持っています。翻って私たちのプロジェクトでは、Actionを取るのに承認を得なければなりません。そのための説明には長い時間がかかります。ただでさえ限られたプロジェクトの期間は、Action がなかなか取れないまま過ぎて行きます。

現状の開発プロジェクトのルールや構造は、やはり、見直すべきでしょう。それ以外にも、この本の中にはマーケティング戦略や、地域ブランディング、流通、コミュニケーションなどなど、数多くのヒントがてんこ盛りになっています。

無論著者はそれをストーリーとして書いており、教科書として構成してはいません。ぜひ皆さんも一読して、鍵となっている考え方やコンセプトを拾い出してみてください。

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