人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2008/12/09号

仕組みを作ろう

by 野田直人

私が国際協力の世界に入ったのは1980年のこと。今から30年近くも前になります。当初青年海外協力隊からこの道に入った私は、途上国の村や森で、自分自身で何かをすることが楽しくて仕方がありませんでした。

私は中米のホンジュラスとネパールの2ヶ国で協力隊員を経験しました。そのどちらの国の任地も、「危険である」との理由で、現在協力隊員などの立ち入りが禁止になっています。

そんな現場での仕事は、もちろんつらかったことも多々ありましたが、非常に充実したものでした。

1986年に国際協力機構(JICA。当時は国際協力事業団)の専門家となり、ケニアのプロジェクトに赴任しました。私は現場担当で、現地の人たちに対し、どちらかと言えば指示を出しながら現場の仕事を進めていました。

その時のプロジェクトの日本人ボスは、もう亡くなられましたが、国際機関の経験が長く、マネージメントに非常に長けた人で、多くのことを教わりました。印象に残っているボスの言葉はいくつかあるのですが、その一つが

「トップにいるものが働いていてはいけない」

でした。

日本は現場主義が強い文化ですから、企業の方でも「それは違うだろう」と思われるかもしれません。私自身も、その意味がわかってくるまでには相当の年月が必要でした。

私自身が始めてプロジェクトの運営を任されたのは1998年ころですから、10年以上が経過しています。それはタンザニアのプロジェクトでした。(タンザニアの話は本になっています。)

私の前任者はやはり青年海外協力隊の出身者でしたが、ものすごい馬力の持ち主で、自分で村々を駆け回り、3年間の任期中に40ヶ所の村々に苗畑を作っていました。その頃、僕自身も「彼は頑張っているなあ」と思っていましたし、彼が頑張っていたことに間違いはありません。

でも、彼が去り、その後プロジェクトのフェーズが変わると共に、それまで5人いた日本人が2人へと減員になりました。このため、それまでのやり方を変えたら何が起きたか。

2年間で500ヶ所の苗畑ができました。3年間で40ヵ所に比べると、大きなパフォーマンスアップです。

日本人の人数は半数以下に減っています。普通ならば、激務が待ち受けている…となりそうですが、実際にはむしろ一人当たりの業務量も減りました。そして、苗畑の例のように、一部の仕事では、パフォーマンスがぐっと上昇したのです。

その理由は、僕や他の日本人が自分でやろうとせず、人に任せる仕組みを作ったことにあります。

指導に来ている日本人が自分で現場で動くと、現地のスタッフはそれに従い、指示を待つようになる傾向があります。そうなると結局、その日本人一人が把握できる範囲の作業しか行うことができません。どれほど優秀な人であっても、こうなれば一人分は一人分です。

「うちのプロジェクトの現地人スタッフは自主性が乏しく、常に日本人がリードしてやらないとだめなんだ。」

という声もよく聞きます。しかし、私の知る限り、十中八九は、日本人が持ち込んだ上下関係が原因で、現地スタッフが自主的に動けなくなっているのが実態です。日本人が自分で頑張ってしまい、現地スタッフが自主性を持てる環境を作っていないのが、ほとんどのケースなのです。

タンザニアでは何をしたでしょうか?

まずプロジェクトの中での現地スタッフの呼称を変えました。現地スタッフをプロジェクトの各セクションのチーフ、あるいはアシスタント・チーフなどとしたのです。これで誰が主体かが明確になりました。

そして日本人の呼称も変えました。一般的にJICAのプロジェクトでは、日本人専門家はエキスパートと呼ばれています。エキスパートなんで、偉そうですねえ。でも、これでは現地スタッフとの関係性がわかりません。そこで日本人にはアドバイザーという呼称を付けました。

現地スタッフがチーフで、日本人はアドバイザーです。これで関係が明確になりましたね。あとは呼称どおり動く(動かない)だけです。

「僕はアドバイザーだから、相談には乗るけど、物事を決めるのはあなたたち。実行するのもあなたたち。」

というスタンスです。役職名の変更は、この点を明確にするためのものです。

こうすると何が起きるでしょうか。日本人よりも人数の多い現地人スタッフが、それぞれ自分の判断で動き始めました。

以前は日本人の人数分しかできなかったことが、タンザニア人の人数分の活動ができるようになります。

さらに、プロジェクト内部の力関係の変更は、プロジェクトのスタッフと、村の人たちとの関係性も変化させていきました。

以前は日本人の意を汲んで、村の人たちに対しても指示を出すような態度であったものが、村の人たち個々の自主性を尊重するようになりました。

するとどうなるか。「自分で判断する人の数が劇的に増える」のです。

つまり、3年間で40ヵ所というのは、日本人一人分の判断を反映した結果。2年間で500ヵ所というのは、500人がそれぞれ判断した結果なのです。

先日マラウイである人が私に聞きました。

「そうは言っても、自分で現場へ出るほうが面白くないですか?」

国際協力を目指している人の多くにとっては、もちろん現場へ出る方が面白いでしょう。それは私も例外ではありません。人と接し、また、自分で何かの判断をして物事が動くのを見る経験は、一種の快感です。

しかし、そこに落とし穴があります。自分が直接働きかけることで起きる効果を目にしてしまうと、それが、自分一人分の効果でしかないことには、なかなか思い至りません。自分が引いて任せれば、もっと大きな効果を生み出す仕組みを作れることに気がつくことができないのです。

ビジネスでも同じでしょう。

自動車を作っているメーカーには、社長自ら一台一台の生産にかかわる、マニアックなイタリアのカロッツェリアもあります。でも、トヨタの社長が一台一台の生産にかかわっていたら、決して今の規模の会社にすることはできません。

国際協力を行う大きな目的は途上国の貧困の解消です。貧困の広がり、規模の大きさには誰しも唖然とするものがあります。何しろ貧困層の人口は数十億人もいるのですから。

では、国際協力を目指す日本人が赴任先で取るべきアプローチはどのようなものであるべきでしょうか。自分が現場で頑張ることでしょうか。それとも、多くの人たちが動ける仕組みを作ることでしょうか。

国際協力プロジェクトで一番コストがかかるのは、日本人を派遣する人件費です。プロジェクトのコストパフォーマンスを上げる最大のポイントは、ここにあります。

国際協力で「給料に見合う働きをする」ことの意味は、プロジェクトのマネージメントを担当する人であれば、一人分の仕事を自分でこなすことではありません。

かつてのボスが私に教えてくれた「トップにいるものが働いていてはいけない」というのは、二つの意味がありました。

一つは「人に任せても動く仕組みを作らなくてはいけない」ということ。そしてもう一つは、そのような仕組みが機能し始めると、「自分があくせく動くような状況は本当になくなる」ということです。

国際協力プロジェクトが、より広く大きなインパクトを持てるようになるためには、マネージメントを担当する者が、「自分が何をするか」よりも、「どのように機能する仕組みを作るか」へと、発想を変える必要があると思います。

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