人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2015/06/03-01号

「方法論よりも工夫を」

by 野田直人

以前何かのレポートを読んでいたところ、「マイクロ・クレジットは有効か」といったタイトルの記事が掲載されていました。その結論は「常に有効とは限らない」という、何とも、「あたりまえでしょ」としか突っ込みようがないものでし
た。無論、世の中にはマイクロ・クレジットで成果を挙げているところもあり、完全に失敗しているところもあり、というのが現実です。

一方、日本の地域おこしでは時々「地域通貨」というものを見かけます。また、以前人の森通信でも紹介した「コミュニティデザイン」というものもあります。どこかでこうしたものを用いた町おこしが成功していると聞くと、他の地域でも「うちでもやろう!」となりがちですが、果たして、成果に繋がるかどうか…。

私が専門とする参加型開発の分野においては、PRA (Participatory Rural Appraisal)であるとか、私自身が中心となって開発した PRRIE (Participatory Rural Develpment and Resource Management by Integrated Training for Equal Opportunity) といったものがあります。

農業普及の分野でしたら、古くは T&V (Training and Visit) という方法論があり、最近では FFS (Farmer Field School) という方法論があります。T&V は現在ではほとんど忘れ去られ、FFS は脚光を浴びています。

こうしたものは、いわば方法論です。こうした方法論を、開発援助のプロジェクトや日本国内の地域おこしなどで試してみた方もおられると思いますが、結果はどうだったでしょうか。

私個人の経験・知見から言いますと、成功は特定の方法論を使ったがゆえにもたらされるものではありません。国際協力なり地域おこしなりに取り組む誰かが、「こうした状況にはこの方法論が良いのではないか」と選択し、それが機能するように工夫と努力を重ねているがゆえに成功がもたらされていると言えます。

つまり方法論先にありき、ではなく、働きかけを工夫していくプロセスの中で、その方法論を選択している、ということです。それどころか、多くの方法論は誰かがゼロからいきなり思いついたものではなく、失敗を重ね、工夫を重ねていくなかで形ができてきたものに対して、後付で名前を付けているのではないでしょうか。少なくとも私が開発に携わった PRRIE の場合はそうでした。

徳島県上勝町の葉っぱビジネス。非常に有名ですが、なぜ成功したのでしょうか?
「葉っぱのバリューチェーンを構築したから。」無論、それはその通りで、バリューチェーンなしで葉っぱビジネスは語れません。しかし、よくよく話を聞いてみると、バリューチェーンを維持するために、ものすごく多くの工夫と努力がなされていることがわかります。

バングラデシュのグラミン銀行も、単に貧困層にお金を貸しているだけではありません。驚くほどの工夫の塊で、それが「マイクロ・クレジット」という表面に見える方法論を支え、機能させています。貧困層が銀行から借り入れる手続きをやりやすくする工夫、投機的なことに借りたお金を使いにくくする工夫、借り入れる人の審査コストを大幅に下げる工夫などなど。

こうした工夫は、最初から全部がきちんと設計されていたわけではありません。成功している事例を見てみると、そこには始めてから試行錯誤を重ね、工夫していった過程が存在し、そして現在もそれが継続している様子が見て取れます。

日々のプロセスの中で工夫し、合理性に基づいて方法論を選んだり、方法論に手を加えたり、組み合わせたり、あるいは新たなものを生み出したり。非常に柔軟かつダイナミックに手を打てる人や団体が成果を挙げているように思います。

その様子を私は将棋にたとえます。飛車・角は強力な駒です。しかし、飛車・角だけ持っていても、将棋で勝つことはできません。強力な駒を有効に繰り出しながら、他の駒も打ち、「詰めていく」ことによって勝つことができます。王将を仕留めるのは飛車・角ではなく、一番弱いはずの歩であることもあります。

国際協力や地域おこしも同様で、重要なのは「詰めていくこと」です。強い駒、ここでは方法論を手に入れ、打つのもそのための手段です。ぜひ「詰めていく」 という感覚を身に着け、工夫を重ねてみてください。

震災から1年が経たない内にイチゴを栽培する農業生産法人を津波の被害を受けた山元町で立ち上げ、そして最初の収穫を行ってしまいます。

2年目には補助金と借入金を使って、先端的なイチゴ農場を建設し、そして東京の伊勢丹で一粒1000円で販売されるイチゴを出荷します。それと並行して、南インドでも現地での雇用を創出すべく、イチゴ農場の建設に乗り出します。

3年目にはインドでイチゴが収穫できるようになり、JICAからインド農村の開発事業を受託します。さらにサウジアラビアでの事業の調査を開始します。国内では、山元町のイチゴを使ったスパークリングワインなどの生産を開始します。

この3年間には失敗も困難にぶつかることももちろんあるのですが、時には損失を出しながらも乗り越え、経験値を高めて前へ進んで行きます。

まずこの人の考え方は、復興や途上国の地域開発を、ビジネス経営と何ら区別しないところにあります。「機会を見逃すのが最大のリスク」と考え、十分な準備ができるのを待たずに動き始める。そして観察しながら素早く軌道修正を加えて行く。

著者は「とにかくPDCAサイクルを早くたくさん回せ」と何度も書いています。これは国際協力においても共通で、私自身も自分の講義などで毎回強調していることではありますが、著者のスピード感にはただただ脱帽です。

(PDCAは Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(対策)の略)

私は現在マダガスカルのプロジェクトに出張できています。このプロジェクトでは初年度から、200以上の集落を対象に事業を行っています。「まず5つの集落で試してから」というようなプロジェクトが国際協力では結構多いですが、広げることを意識したアプローチを取る場合には、最初から狙って行って、早くPDCAサイクルを回す必要があります。そこまでの発想は共通。

マダガスカルのプロジェクトでも、もちろん問題も発生しました。修正しようと努力もしています。

そして、想定していなかった機会にも気が付きました。ここからが、この本の著者とは違います。

マダガスカル政府と日本政府が一緒に行う私たちのプロジェクトは、計画の範囲内で、予算の範囲内で実施しなければなりません。この本の著者はチャンスに気が付くと、すぐにビジネスプランを書いて資金を借り入れ、イチゴ栽培に乗り出しますが、国のプロジェクトでは計画外のことに予算を投入して行くことはできません。著者は「チャンスを見送るのは最大のリスク」と書いていますが、私たちのプロジェクトは制度的にそのリスクを背負ってしまっています。

PDCAサイクルの回し方にも違いがあります。著者の場合、PDCAサイクルを回す本人でもあり、その結果に基づいて意思決定を行う本人でもあります。つまり、 PDCを行って、自分でActionを行う責任と権限を持っています。翻って私たちのプロジェクトでは、Actionを取るのに承認を得なければなりません。そのための説明には長い時間がかかります。ただでさえ限られたプロジェクトの期間は、Action がなかなか取れないまま過ぎて行きます。

現状の開発プロジェクトのルールや構造は、やはり、見直すべきでしょう。それ以外にも、この本の中にはマーケティング戦略や、地域ブランディング、流通、コミュニケーションなどなど、数多くのヒントがてんこ盛りになっています。

無論著者はそれをストーリーとして書いており、教科書として構成してはいません。ぜひ皆さんも一読して、鍵となっている考え方やコンセプトを拾い出してみてください。

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