人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2012/08/25号

本の紹介「ボトムアップ・マーケティング戦略」

アル・ライズ/ジャック・トラウト著

reviewed by 野田直人

http://honwoyomu.com/books/4820718274.html

タイトルから見てもわかるように、アメリカで書かれたマーケティング関係のビジネス書です。

アメリカのビジネス書は、事例が豊富でコンセプトが明確で、値段の割に読み応えがあり、役に立つものが多いのですが、本書も例外ではありません。

ただ、示されている例がデルモンテ、GM、IBMといったように、大企業や有名ブランドが多く、「自分たちのビジネスや、途上国の人たちのプチビジネスに役に立つのかなあ?」と一瞬思ってしまいます。

でも、この本で言わんとしているところが飲み込めれば、要領は同じ。

「ボトム・アップ」の対極は「トップ・ダウン」ですが、トップ・ダウンのマーケティングというのは何でしょうか?

典型的な例として、ニッサンがダットサンというブランドを捨てて、ニッサンに統一 した、という事例がとりあげられています。

ニッサンに統一したいのは「企業トップ側の思惑」で、ブランドイメージを社名 と一致させたい、といったようなものでした。

ところが、エンドユーザーの側は「ダットサン」というブランドが気にいって使っているわけですから、耳慣れないニッサンに替えることは、ユーザーにとっては何の意味もないどころか、むしろマーケティング戦略としてはまずい、というこ とになります。

つまり、ユーザー側がどう認識するかという「ボトム」から構築せず、経営者側の頭の中だけの期待からマーケティング戦略を組んで行くことを、トップ・ダウンと呼んでいるわけです。

ボトム・アップは、もちろんユーザー側の視点、ユーザーが持つブランド・イメージを損なうことなく、うまく構築・提案して行くことにあります。

では、国際協力の中での応用としてどのようなことが考えられるでしょうか。

例えば現在JICAは一村一品を世界各地でプロモートしています。ところが、ここに難しい点があります。

日本の一村一品運動は大分県で生まれたものの、どちらかと言うと「運動のコンセプトに付けられた名前」となっていて、特定の団体と結びつけられて考えられていません。

これに対して、海外、特にアフリカで一村一品が導入される場合、プロジェクトや各国政府が実施する小規模ビジネス支援プログラムの名称というイメージを植え付けてしまう傾向にあります。政府機関やプロジェクトが、「一村一品生産者グループ」や「一村一品商品」を選定あるいは認定しますから、余計にそうしたイメージが強くなります。

ではそうした中で、一村一品プロジェクトが終了したり、一村一品と名付けられた政府の小規模ビジネス支援プログラムが終了したりしたら、一体どうなるでしょ うか。

もし「一村一品」を、将来的には政府やプロジェクトの支援とは関係がなく継続 ・拡大して行くコンセプトとして認識して欲しいのであれば、地域住民の側が最初からそのようなイメージを持つような、一種のイメージ作りが必要となります。

「プロジェクトに参加する」「政府の支援に選ばれる」のではなく、一村一品は 「自分たちで始めるものである」というコンセプトの定着が行われない限り、持続的な発展はかなり困難になるでしょう。

なぜなら、外部からの支援の終了が、特定のコンセプト(この例では一村一品) の終了と受け止められかねないからです。

プロジェクトや政府機関は、「自分たちがやっていることへの評価」が大切ですから、どうしてもトップ・ダウン・マーケティング的な発想でエンドユーザー (この場合は地域住民)に対して提示しがちです。

そこを、「コンセプトと実施主体を切り離す」ことによって、日本からの援助や政府のプログラムの終了と同時に、コンセプトそのものが意味を失う事態を避けることができます。

もちろん、「コンセプトと実施主体を切り離す」ことだけで、将来の持続・発展が保証されるわけではありませんが、日本の一村一品運動の継続性の前提となっているのが、特定の母体と結び付けられていないことだと考えます。

言わば、一村一品が「パブリック・ドメイン」のコンセプトとなり、独自に歩いているのが日本の一村一品運動の実際ではないでしょうか。

そのような、地域住民自らに属する「コンセプト」を定義し、そのプロモーショ ンをサポートするのが、援助機関や行政の役割だと考えます。日本の一村一品運動で大分県が果たした役割は、まさにそのようなものであったと思います。



 

 

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