人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2011/11/25号

コラム 「協力と競争の組み合わせ」

by 野田直人

国際協力関係の現場では、途上国の地域住民の協力の重要性を訴え、グループ化 や集団でのアクションを促そうとするケースが多々あります。競争は格差を生む、 という考えや、協力すれば大きな力になる、という考えに基づいているのだろう と思います。

確かに地域住民がばらばらのまま、今までのように競争している状態だと、特に 産品の流通販売などにおける非効率性、外部に対するネゴシエーション力の弱さ、 そして力ある者の独占、といった問題を生じてしまっているケースが多々ありま す。

これらが事実であるとは思いつつも、実は僕は援助機関が進めたがる「みんなで 一緒に」アプローチには以前から疑問を抱いていました。

と言うのは、実際には途上国の田舎でも、家計や意思決定は、個々の家庭や個人 単位で行われていることが多いからです。それを共同で行うようにする、となる と、多くの独立した意思決定者が相互の合意を得るためのトランザクション・コ スト、つまりは手間暇が必要になりますし、貢献度や分配の公平性も維持するの は実は非常に大変です。

そしてまた実際、援助機関が「グループ全体で管理する」ことを前提に供与した 資金や資材を、地域住民がこっそり分配してしまっている、というケースもたび たび耳にします。その中には「知らぬは援助者ばかりなり」ということも多々あ る様子です。

僕はこれは、援助する側が「競争よりも協力を」という二者択一的な考え方をし ているが故の問題と捉えています。実は「競争と協力を」の方がうまく行くので はないでしょうか。つまり、合理的に「ここは協力した方が良い」という部分で は協力する仕組みを作りつつ、意思決定は今まで通りここに行うことができる余 地を残す、というアプローチです。

この面白い例が、有名な徳島県上勝町の葉っぱビジネス、いろどりです。葉っぱ の生産者の人たちは、規格化や、葉っぱを出荷するルール、いろどりブランドの 維持という点では協力しています。その一方で、いろどり内部では、葉っぱの出 荷で競争関係にあります。つまり対外的には「いろどり」というブランド、上勝 町という地域アイデンティティで協力しつつ、内部では競争しているのです。

これは実に巧みな仕組みです。内部では競争を導入することによって、生産・出 荷のスピードアップや、品質の向上を行っています。一方対外的には協力してい ろどりブランドを維持し、良くしていくことが参加者全員の利益となっています。

最近、また別の同じような例に出会いました。岐阜県の旧明宝村。現在は合併に より郡上市明宝地区になっていますが、この地区の民宿のおかみさん達の会、ビ スターリマーム(http://www16.ocn.ne.jp/~vistari/)の取り組みです。

それぞれの民宿は、お互いにライバル関係にあります。以前はお互いの交流もほ とんどなく、互いをたんにライバル視していただけだったようです。でも、その ことの問題に気付いた一人のおかみさんの努力で会ができ、協力できる部分は協 力するような仕組みが作られて行きました。

「明宝地区」あるいは「明宝地区の民宿」をプロモートするような場合には、協 力する。山の中である明宝のアイデンティティを共有し、対外的にそれを示すた めに、例えば「マグロの刺身は出さない」という共通ルールも作っているそうで す。また「明宝の民宿」として共同で広報することにより、個々の民宿では断ら ざるを得なかった大きなグループも分宿で受け入れられるようになり、相互の利 益は増しているそうです。

さらに協力して動くことにより、地域の行政や、他のプレーヤーの目にもとまり、 多くの組織や人々との協力も成立しているそうです。

その一方で、それぞれの民宿の「売り」はそれぞれがユニークなものを考え、ラ イバルとして競い合っています。

つまり明宝への集客や、宿泊客の取りこぼしを防ぐところでは協力しつつ、それ ぞれの宿のカラーは、むしろ異なったものとして競争しているのです。施設で売 るところ、料理で売るところ、若女将で売るところ?!いろいろだそうです。

そうやって考えると、かなり多くのケースでこの「競争と協力」モデルが使われ ていることに気づきます。

例えば有名な岐阜県高山市の朝市。この朝市の参加者は全員が朝市組合という組 合に参加しています。そして、商品を入れる袋は組合名のもので統一されており、 さらに食品を販売するための研修への参加なども義務化されているそうです。

その一方で、各商店は、似たような商品を並べながらも各家の作り方で製品を作 り、それぞれがアピールして競争しています。

つまり、高山朝市のプロモーションや、クオリティーの維持には協力してあたり、 商品開発や販売においては競争する、という仕組みになっています。

上勝町、明宝と高山朝市の共通点は、対外的には一つの地域アイデンティティの 下で協力すること。その一方、中では競争を継続して切磋琢磨していること。そ してそれを実現するために、上勝町ではいろどりという企業が、明宝ではビスター リマームという組合的な組織が、高山朝市では朝市組合が競争と協力の間に入っ ている、という点です。

一方ではアイデンティティを共有して協力し合っている者同士ですから、競争と 言っても相手の息の根を止めて独占する、というようなものにはなりません。い ろどりの場合など、競争はむしろゲーム感覚のように思えます。明宝でも女将さ んたちはライバルであると同時に、経営上同じ悩みを持つ者同士として連帯感を 持っているようです。つまり、決定的な勝者敗者を作らない競争、と言っても良 いでしょう。

企業においても同様で、企業内での健全な競争が、対外的には自社製品の売り上 げや、自社のブランドイメージの向上につながっているケースはかなり多いので はないでしょうか。

国際協力において、このような協力と競争をうまく組み合わせようとする計画、 それを明示的に戦略として取り込んでいるケースは、今まで一度も見たことがあ りませんが、実際には応用できるケースも多いのではないかと想像しています。

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