人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2013/06/10号

コラム「JICA国内研修の可能性」

by野田直人

私は長い間、おもにアフリカでJICAのプロジェクト実施に携わっていました。その時、現地から毎年のように日本に研修員を送りだす立場にありました。その頃現地で考えられていた日本国内での研修の役割は、若干の専門知識を学ぶことよりも、「日本人の働き方を見てもらおう」であるとか「日本を好きになってもらおう」といった、副次的なことであったことを、まず白状しておきましょう。

つまり、私がかかわってきた分野においては、国際協力の手法としての国内研修を現場が重視しておらず、「おまけ」程度に考えていたわけです。

詳しくない方のために紹介しておくと、JICAの国内研修は途上国の方たちを日本に招いて研修を受けていただくプログラムです。特定のトピックで複数の国からの研修員を受け入れるもの、特定の国の特定のプロジェクトの関係者を受け入れるものなど、タイプはいくつかあります。研修期間もまちまちですが、当社人の森が担当するものは2-5週間程度のものです。

それぞれの研修プログラムは、人の森のような国内の各受託機関がカリキュラムの編成や、講師の手配、テキストの準備などを受け持ちます。受託機関は大学、政府機関や地方自治体、業界団体や公益法人などが多く、人の森のような民間企業で受託するケースはさほど多くはないようです。

特に私が今までかかわっていたのは、植林などの環境関係、農林業の普及、地域おこしや小規模ビジネスなど。つまり社会や自然の環境が大きく異なるところでは、日本の経験や手法がそのままでは応用できない部分でした。この辺りが下水処理やIT等といった、世界共通の技術を学ぶ研修、つまり日本で教える技術がそのまま役に立つ研修とは異なっていたところでした。

現在は途上国からの研修員を受け入れる事業に携わり、送りだす立場と受け入れる立場の両方を経験しています。そうしたところ、国内研修に対する見方がだいぶ変わってきました。

それは一言で言えば、「国内研修はおまけではない。やり方によってはかなりのインパクトを出すことができる」ということでした。それではなぜ、以前は「おまけ程度」とか「日本人の働き方を学ぶ」などと考えていたのでしょうか。もちろん原因は数多くあるでしょうが、今重要と思っているのは以下です。

1)研修を企画する側が現地に必要なものをピンポイントで把握していない。
 つまりは研修が「一般的」「総花的」なものになってしまいがち。
2)研修を企画する側が日本の経験のどこを抽出すべきかわかっていない。
 このため、日本の地方見学に出かけても、交流と見学で終わりがち。
3)研修を企画する側が抽出した日本の経験と現地状況の関連性が説明できない。
 このため、事例紹介も単なる歴史・ストーリー紹介で終わりがち。

効果を上げるためには、1)~3)を押さえたカリキュラムを構成すれば良いわけです。(もちろん、これは「必要条件」であって成果を出すための「十分条件」では、まだありませんが。)

一例をあげましょう。日本では農協が農村振興において重要な役割を果たしてきました。ところが、農協をストレートに紹介しようとすると、まず途上国の研修員から返って来る反応は「農業協同組合なら我が国にもあるし、既に推進してい る。」です。そして、そこで研修員の興味は終わってしまいがちなのです。

実際には途上国で言う「Agricultural Cooperative」は、訳せば農業協同組合ですが、日本の農協とは全く異なるものです。この違いを把握した上で、日本の農協が果たす機能を明確に定義して紹介し、さらに途上国のどこに入れれば良いか、までを考えたカリキュラムにしなければ、意味のある講義にはなりません。

この例では、日本の農協の紹介で「アハ!体験」まで持っていけるかどうかが、研修の大きな課題になります。ここで言う「アハ!体験」は、「そうだ!この機能は確かに見落としていた!」「そうか!こんなやり方があったのか!」といっ た気付きです。

人の森の研修では、こうした機能やコンセプトをいくつも抽出して、それを講義と実例紹介(講義と現場訪問の両方)で理解してもらうように考えて構成しています。

先週の金曜日に行われたアフリカの地域振興研修の終了式。受講者代表の挨拶の中で「私は既にある程度の知識は持っているつもりでここに来た。でも、ここでの研修は新しいものの見方を教えてくれた。」嬉しいですねえ。これがまさに、人の森の研修が目指すところです。

あとは、研修を受けて帰国した人たちが、自国でどのようにインパクトを出して行けるか、そのための工夫とサポートです。こちらは人の森単独ではできませんから、研修を主管するJICAと相談して戦略を考えて行こうと思っています。

  • 「JICA国内研修の可能性」
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