人の森国際協力>>アーカイブス>人の森通信2009/05/14号

開発協力における成功の基準

by 野田直人

開発協力活動の成功の基準は何だと思いますか?

ゴールデンウィークに実施した講座に関する受講者の評価に目を通していたところ、「成功の基準は人によって異なってよいのでは」というコメントがありました。多分、講座の中で、私がある案件について「これで成功と呼べるのか」と評したことへの感想かと思います。この点について、少し考えてみたいと思います。

もちろん、コメントをいただいたとおり、「成功か否か」は、人によって評価の基準が異なることは確かです。国際協力案件の場合は、あらかじめ計画されたゴールに到達すれば、計画を行った当事者あるいは実施機関にとっては「成功」という判断がなされます。

でも私自身は自分の活動の結果であれ、他者の活動の結果であれ、「成功」という言葉はまず使いません。改善があった例を紹介する場合にも、「何をしたら、どれくらいのものになったか」という表現を使います。

国際協力にかけられる予算や人的資源は限られています。今後も急激に大きく伸びることはないでしょう。そのような環境下で、国際協力のパフォーマンスを向上するためには?

鍵を握っているのは、国際協力にかかわる人、かかわろうとする人の向上心です。

数百万人が裨益するグラミン銀行を生み出したのは、人の知恵と向上心です。ユヌス氏が早い時点で低いゴールを設定し、「成功した」と思ったとしたら、今のグラミン銀行はなかったことでしょう。

先日NHKの番組で、脳科学の話をしていました。「ゴールに到達した」と思うと、脳はそこで働くのをやめてしまうのだそうです。

想像してみてください。国際協力にかかわる人、一人ひとりの改善は、途上国の大勢の人たちにとっての機会に直結します。どのくらいの人たちに、何を提供できるかは、援助にかかわる人の意識にかかっています。

国際協力におけるゴールは、実は通過地点に過ぎず、本来、成否ではなく、相対的な位置関係・位置づけでしか把握できない、というのが私の考え方です。

なぜなら、成否の判断は、あらかじめ設定されたゴールを超えたかどうかだけを示し、もっと良いことができたかどうかに関しては何も示さないからです。

援助をする人にとって重要な問題があります。それは、援助を受ける人たちにとっての判断基準です。援助を受ける人は、どのような援助が来ても自分の利益がゼロ以下でない限り文句は言いません。ところが、そのせいで援助を行う側に見えなくなってしまうものがあります。

AとBという二つの、実力が異なるNGOがあったと仮定しましょう。Aは5年間で100という仕事ができます。一方Bは同じ予算・同じ期間で50という仕事しかできないとします。能力差は個人や組織にはつきものですから、これはあり得る仮定です。

一般的には、AというNGOもBというNGOも、自分たちが「良し」とする基準で成否を判定します。BというNGOがあらかじめ成功ラインを決め、そのラインを超えることができたら、Bは成功という判断をします。

でも実際にはBというNGOの支援を受けた人たちは、もしBの代わりにAが来ていたら受けられたはずの100との差、50を失っています。つまり、見えないところで被援助者に逸失利益が生じているのです。

ところが、もしBに属する人たちが「これで成功」と判断しているとしたら、どうなるでしょうか?「誰にとっての成否か」という問題ではなく、本来提供できるはずのものができないのですから、援助にかかわる者としてのモラルの問題だと私は考えます。援助を受ける人たちには、通常NGOを比較して選ぶチャンスはありません。

さらに問題は「これで成功」と判断してしまうと、「それより上」を目指す必要性や、理由がなくなってしまうことです。Bが100やそれ以上を目指すことなく、50で良しとしてしまったら、今後もBから援助を受ける人たちは、逸失利益として損失を被ることになります。

Aも同様です。やり方を工夫すれば100にとどまらず、150や200を達成することができるのではないでしょうか?

自分がゴールに到達したと思い込むほど恐ろしいことはありません。それ以上の努力や改善は行われなくなります。民間企業であれば競争もあり、切磋琢磨を怠れば、市場から退場を宣告されることになるでしょう。しかし、国際協力の世界では、パフォーマンスが上がらないことを理由とした、明確な退場宣告はありません。

国際協力は「頑張っている」ことだけでもそこそこ評価される世界です。BというNGOも頑張っていることでしょう。頑張って達成した50を「不十分」と判断されれば、もちろんBの人たちは面白くないでしょう。でも、本当に不利益を被っているのは誰かを考えましょう。

常に「これではだめだ」「まだ工夫の余地があるはずだ」と考え続けるのは、自分のためだけではありません。その先にあるのは、本来得られるはずの機会をみすみす逃さざるを得ない、途上国の人々がいるからです。

繰り返しましょう。自分の仕事であれ、他人の仕事であれ、決して「成功した」と考えず、厳しい評価を下す必要があります。なぜなら、それは、国際協力専門家という職業人としての、モラルの問題と考えるからです。

高い評価を得ながらまだ新しいことへのチャレンジをやめないバングラデシュのグラミン銀行のような気概を、国際協力にかかわるすべての人が自覚して持つべきではないでしょうか。

自分が向上すれば、途上国の人たちの利益に直結します。それを目の当たりにできる機会があれば、とても嬉しいものです。ユヌス氏がチャレンジを続けるのは、それがわかっているからではないかと思います。皆さんも、特定の案件の成否評価に惑わされることなく、「より良くなる」ことの嬉しさを共有しましょう。

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