人の森国際協力>>アーカイブス人の森通信2013/07/09号

本の紹介「独創はひらめかない」金出武雄著

by野田直人

本書の著書、金出武雄氏はカーネギーメロン大学でロボット工学を研究する教授。ロボット工学の世界的権威の一人と言っても良い人だそうです。でも国際協力の仕事に来て別にロボット工学を勉強しているわけではありません。本書「独創は ひらめかない」は、発想の仕方、そして実行や他者との関わりについて書いた本です。

本書を手にしたのは宇都宮駅構内の書店でした。国際開発学会の1セッションのコメンテーターを務めるために呼ばれ、時間つぶしに入った書店で偶然見つけたのが本書でした。パラパラとめくってみると字がびっしり詰まっています。拾い読みして見ると、ピンと来るものがあり、その場で購入しました。

最近は欲しい本をインターネットで検索して調べて購入することが多いのですが、たまには書店をぐるっと回らないと、良い本との出会いも限られるかもしれませんね。それはともかく。

本書の内容はかなり盛りだくさんなのですが、本書の副題の「素人発想、玄人実行」を取り上げたいと思います。著者は「素人発想、玄人実行」がイノベーションのために必要だと書いていますが、大雑把に説明してしまうと「素人のように、物事にとらわれずに発想し、玄人のように緻密に実行する」というようなことでしょうか。

そしてもちろん、多くのものがこの逆、「玄人発想、素人実行」になっているのが問題、というのが著者の指摘です。この意味は「その分野の固定した観念の中で発想し、実行の詰めが甘い」というようなことでしょうか。

これは国際協力の分野でも、決して他人事ではありません。現在私がいるマダガスカルのプロジェクトから「玄人発想」の例を紹介しましょう。

マダガスカルのプロジェクトでは、私自身がセネガルのプロジェクトにいた時に発想したPRRIE(以前はPRODEFIモデルと呼んでいた)というアプローチに基づいて実施されています。当地での具体的な活動としては、農林水産技術や生活改善技術等の、地域住民への直接普及・訓練です。

プロジェクト実施開始後1年がたち、機能している部分、あるいはうまく行っていない部分などが少しずつ明らかになって来ました。少しずつ軌道修正を行わなければなりませんから、現状の調査をしたり意見を出し合ったりしています。

先日、プロジェクトでは前回の雨季に植林を行った人たちの聞き取り調査を行いました。植林がどれくらい行われたかはプロジェクトの結果を示す重要な指標です。従って「植林がどれくらい行われたかを調査する」のは当然…ではありますが、植林を行ったと思われる人たちだけを調査対象にしているのが、私には「玄人発想」に思えてしまいます。

この場合、何に関する玄人かと言うと、「植林」及び、国際協力プロジェクトのマネージメントでよく言われる「モニタリング・評価」です。

プロジェクト評価の指標として、「植林の進み具合」が入っていますから、植林をした人を対象に調査を行い、データを得る。さて何の不都合があるでしょうか?もちろんデータとしての不都合があるわけではありません。

視点を変えて、プロジェクトのスタッフが村へ調査に行くシーンを思い浮かべてください。スタッフは玄人として「植林された結果」を調査するものだと思っていますから、まっすぐに「木を植えた人」のところへ向かいます。

では、植林に関係のない素人が村へ行ったらどうするでしょうか?人によるのはもちろんですが、「植林した人だけのところへ行く」必然性はありませんから、「誰とでも言葉を交わす」可能性が高くなります。つまり、植林したかどうかによって人を分け隔てしない。一方玄人の方は、気がつかないうちに植林をしたか否かによって村の人たちを、分け隔てしてしまっています。

玄人は「プロジェクトにとって必要なデータを得る」のが当然と思いこんでいます。一方の素人は「村の人みんなと仲良くすべき」だと思っています。では、村の人、特に何らかの理由で前回の雨季には植林ができなかった人にとって、この場合の玄人と素人、どちらが信頼できる人に見えるでしょうか。自分の話を聞いてくれない人か、聞いてくれる人か。

これはマダガスカルのプロジェクトに特有なことではなく、多くのプロジェクトで起きていることです。植林や環境保全の玄人は「木を見る」一方、素人は「人を見る」傾向にあります。

実際に木を植えるのはそこに住む人たちですから、人が動かないことには木は植わりません。ですから、木だけを見ている間は、良い解決策は見つかりません。玄人が自分が学んだ「木」や「プロジェクト指標」に囚われていては、良い発想はできないわけです。つまり「玄人発想」の中からは成果を拡大できる解決策が生まれる可能性は低い。

一方の素人も、単に村人みんなに挨拶をしているだけでは何も生まれませんが、植林玄人の思い込みから自由な立場で発想する。そこからブレークスルーが生まれる可能性の方がはるかに高いと思います。

本書の著者はもちろん、「玄人は退場して素人に発想させよ」と主張しているわけではありません。玄人に対して「自分が今までやってきたことに囚われることなく、素人のように自由に発想せよ」というのがメッセージです。

実を言うとPRRIEというアプローチも、旧来の普及手法からの発想ではなく、「人は何をされたら嫌か、何をされたら嬉しいか」というところから組んでいます。興味のある方は下記リンクから資料をご覧ください。

http://hitonomori.com/archives/training_text/PRRIE.pdf

「玄人実行」に関してはいずれ稿を改めて書きたいと思います。

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